農業やアウトドアの授業も

「フォルケホイスコーレを創設したグルントヴィが目指したのは、自分の中から湧き上がるものに気づくこと」と語るのは、日本で23年間理学療法士として働いてきた中島京子さんだ。40代の彼女は日本で、訪問看護で終末期の患者と向き合いながら、最後の時間を、何に重きを置き、どのように過ごせば、その人や家族にとって幸せなのかを考えたという。

「私が患者と対面する時間は1時間ほどのわずかな時間です。自分にもっと引き出しがたくさんあったり、人間力が高かったりすれば、わずかな時間でももっといろいろな提案ができるのではないかと思いました。また、その人から出てくる言葉や雰囲気、態度の中から、表面には出てこない本人の思いをキャッチする力が欲しいと思いました」

そんなふうに考えていた時、フォルケホイスコーレを知り、退職してデンマークに留学した。

フォルケホイスコーレでは、自然との共生を大事にしている。農業の授業などもあり、作物を育ちやすくするための土壌改良のやり方など実学的なことも学ぶ一方で、アウトドアスポーツや自然との共存を体験させる授業などもある。海でカヤックを漕いだり、山の中をマウンテンバイクで走ったり、過酷な山道でのトレッキングといった経験から気付くことも多いという。「自分にもこんな力があるんだと気付き『ちょっとたくましい自分になれたのではないか』という感動がありました。心の底から『楽しい』とも思えました」と、中島さんは言う。

デンマークでは、中島さんのように就職した後、仕事をしばらく休んでフォルケホイスコーレに行く人も多い。また、福祉、心理学、音楽などの専門性をつけた後、新しい職業に就く人も少なくない。筆者が現地で知り合ったデンマークのミュージシャンの男性も今年音楽が専門のフォルケホイスコーレに行き、作曲などを学ぶつもりだといっていた。日本と違い、いくつになっても、そして人生で何度でも、デンマークでは国の支援のもと学び直しができる。