実弟は「今まで信ずるはずもないものを信じようとした姉」

これは身内にしか書けないリアルなエピソードだ。嘉子さんの実弟である武藤輝彦さんは「ガンと判ってから、もっともっと積極的な治療を本人は望んでいたのではないかと思います。とにかく今まで信ずるはずもないものを信じようとした姉」と振り返っている。嘉子さんは最初に判事として名古屋地裁に赴任したとき、ある人からしつこく宗教に勧誘され、「入信しなければ、(当時小学生だったひとり息子の)芳武くんにまで累が及ぶ」と脅されたことに懲りて、それ以来、宗教を遠ざけてきたというが、不治の病となって「神にもすがりたい」気持ちになったのだろう。

しかし、宗教ではなく、法律家として「法」の論理で動いてきた嘉子さん。最期にはその葛藤を乗り越えたのか、病院のベッドで息絶えた瞬間、「ロザリオは枕頭にはなかった。そして、義母の葬儀は無宗教式で行われた」と茂さんは書いている。