明るく人間的魅力にあふれ、情熱的なトークで周囲を魅了
嘉子さんが明治大学法学部で講師として民法のゼミを受け持っていたとき、ゼミ生だった長沢幸子さんは、こう書いている。
原告、被告、弁護士、調査官などと話し合いを重ね、裁判では判決を言い渡す役割の裁判官だけに、話し方はうまく、説得力があったと多くの人が証言している。
「彼女の論説は、相当シリアスでありながら、それが少しもギスギスせず、和やかに聞こえる」
「満面に笑みを浮かべながら、一人一人に語りかける様にして、美しいお声で話される」
「甘くて張りのあるよく通る声でなさる発言は、例外なく満座の注目を集めた」
後妻に「家なんか返してあげなさい。私も再婚よ」と説得
中でも具体的で面白いのは、嘉子さんの浦和家庭裁判所所長時代のこととして、調停委員だった土肥重子さんが明かしたエピソードだ。
その時、三淵さんが、サッサッと入って来られた。三淵さんは婦人の前にすわり『あなた、再婚でしょ? 私も再婚よ――いいじゃないの。家なんか。返してあげなさいよ。私、再婚だから、あなたの気持分かるの』
といって、ジッと婦人の目を見た。
調停はこの一言で決着の糸口がついた。あの呼吸は、誰にも真似が出来ない。男性にはもちろん出来ない」
嘉子さんは家庭裁判所の判事を長く務め、ライフワークとした少年事件だけでなく、ドラマの前半で描かれたような離婚や愛人問題、遺産相続問題も多く扱っていた。女性の後輩の判事には「男女のドロドロした事件は苦手。それに比べて、少年はかわいいわ」とこぼしていたが、自身も二度結婚し、血のつながらない子どもたちの親になるなど、人生経験は豊富だっただけに、適任だったようだ。