娘との間に溝ができた寅子のように「間違える」人を描きたい
でも、そんな人が自分と一緒にお祭りに行ってキャッキャと騒ぐような一面を目の当たりにすると、そのギャップを可愛いと思ってしまった。さらに、航一が戦争を止められなかった自責の念に苛まれていること、それにより自分の心に蓋をして家族とも溝ができていることを知ると、そんな航一の姿に、新潟に赴任する前の自分を見たんですよね。
寅子は娘・優未との溝ができていることに気づき、新潟では2人で暮らす中でなんとか溝を埋めていった。寅子にとっては「家族との溝」があるという状況はこれで2度目だからという気持ちで受け止めることができるんです。その上で、星家の中でできてしまった溝については、自分と優未は部外者だからと、そこに介入するのではなく、あえていったん退くんですよね。
私は寅子も含めて、あまり優秀で完璧な人にはしたくない。「間違えない人」を出したくないと思っていました。寅子も航一も、それぞれ最初の結婚でパートナーを失い、後ろめたさも後悔もある中で出会っていて、亡くなった方はもう戻らないけれど、次は失敗しない、後悔しないぞという気持ちが2人とも強いと思うんです。だからこそ、大っぴらにいちゃつくんですよね(笑)。
モデルの三淵嘉子さんとは違って「事実婚」にした理由
三淵嘉子さんの史実と異なり、ドラマで事実婚にしたことには、いくつか理由があります。史実に合わせるのかどうかについては、かなり悩みました。
でも、寅子という人が「佐田寅子」という名前が消えることを喜べるとはどうしても思えなかった。また、寅子のモデルとなった三淵嘉子さんは、男女平等の実現を強く願っていた方で、当時、女性の社会進出の最前線に立ち、その思いを多く語っています。三淵さんが望んでいた男女平等や女性の社会進出というテーマを、今の人に響くものにしないといけないという思いがありました。