事実婚を選んだのは「仕事で旧姓使用ができない」からか

寅子は、最初の結婚のときには「既婚女性」という社会的地位を得るために何も考えずに相手の佐田姓になりました。でも、2回目の結婚にあたり、気になってくるという描写については、実際に今の時代になってから振り返ってみれば……ということがあると思うんです。

寅子の場合は、法律の世界にいて、裁判所は判決文や書記官が書く文書において、戸籍名しか長年認められていなかったために事実婚を選びました。

でも、例えば私の場合、吉田は旧姓ですが、この名前で生きてきて、仕事上はそのまま旧姓で居続けられるので、結婚し苗字を変えることにはそれほど抵抗がありませんでした。

『NHK連続テレビ小説「虎に翼」シナリオ 第1集』(e-book)
『NHK連続テレビ小説「虎に翼」シナリオ 第1週』(e-book)

逆に旧姓の吉田をずっと使っているだけに、病院などで本名を呼ばれて「誰?」となることがあったり、自分の息子の保育園などでは息子の名前で「○○くんママ」とか「○○くんのお母さん」と呼ばれるから、苗字をあまり意識しないくらいだったりします。

でも、完全に旧姓を使えない状態になるのだったら、やっぱり抵抗はあったかなと思います。そうしてこれまで姓を奪われてしまった女性たちの思いをなかったことにしないため、事実婚を描いたのです。

もちろん、旧姓使用ができればそれでいいというわけではありませんよね。今の日本では認められていませんが、結婚を考えている2人がどちらも姓は変えたくないという場合には姓を変えないで済む。そんな選択肢ができればいいと思います。

取材・文=田幸和歌子

吉田 恵里香(よしだ・えりか)
脚本家・作家

1987年生まれ。神奈川県出身。主な脚本執筆作に映画『ヒロイン失格』、ドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』『君の花になる』『生理のおじさんとその娘』など。ドラマ『恋せぬふたり』で第40回向田邦子賞・第77回文化庁芸術祭優秀賞を受賞。アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』で第9回ANIME TRENDING AWARDS(ATA)最優秀脚色賞を受賞。執筆した小説に『恋せぬふたり』(NHK出版)など。