「周りに迷惑をかけない」「相手に配慮する」のは美点だが…

もちろん、ルールをきちんと守るのは日本人のすばらしいところです。それがいい方向に作用することのほうが断然多いと思います。暗黙のルールの中には、自分の言動に責任を持つ、周りに迷惑をかけない、人の気持ちに配慮するといった日本人の美点につながるものも、たくさんあります。

先ほどの優先席の話なんて、その美点がたまたま裏返しの形で出ただけで、日本人が持つ基盤のすばらしさからすれば、ささいなことに過ぎないと思います。

それに、どんなにちょっとした決まりにも、それなりの理屈があるんですよね。私は日本の会社で働いていたときに、商習慣からビジネス上のコミュニケーションマナー、目的を達成するための段取り方法まで多くのことを学びました。

どれも社則などと違って明文化されているわけではないので、いわば社会人としての裏技のようなもの。でも、日本で会社員をしているうちに、それらを知っているのと知らないのとでは仕事の成果に結構な違いが出ることも、一つひとつにそれなりの理屈があることも知りました。会社員時代に学んだことは、いま駐日大使の仕事にも大いに役立っています。

とはいえ、暗黙のルールが多くプレッシャーが強い社会には生きづらさも伴います。ルールを守らなきゃいけない、周りに迷惑をかけちゃいけない、変な人だと思われちゃいけない……。気にし始めたらキリがありません。

「それはダメ!」と決めつける前にいったん立ち止まって

いったんこうした空気に流されてしまうと、その思い込みが意識にしみつき、自分自身を縛ったり他者に強制したりすることにもつながっていきがちです。皆がもう少し気楽に、自分に対しても他者に対してもゆったりと構えたほうが、より生きやすい社会になるんじゃないかなと思います。

駐日ジョージア大使 ティムラズ・レジャバさん
撮影=市来朋久

「それはダメ!」と決めつける前にいったん立ち止まって、なぜダメなのか理由を探ってみてはどうでしょうか。自分の頭でしっかり考えてみるのです。その結果、理由を論理的に説明できなかったら、そのルールはおかしいということです。

確かに社会の風習や決まりごとは大切ですが、しっかり考えたうえでなら自分の論理に従うのがいちばん。それで変な目で見てくる人がいたら、変なのはその人のほうです。論理的でないルールを盾にプレッシャーを与えてくるような人に、無理して合わせる必要はないと思います。