幸せは自分で切り開く余地が十分にある
これまで見てきたとおり、親子の幸福度は連動しているため、どのような親の元に生まれるのかによって、子どもの幸福度の水準が決まってくると考えられます。ただし、その関連の強さは決して致命的なものではなく、部分的な「親ガチャ」にとどまると言えるでしょう。
この結果から、私たちの幸せは、自分たちで切り開く余地が十分にあると言えます。
私たちの人生の中で「幸せ」は重要な要素あり、これを自分でコントロールできる部分が多いというのは朗報です。
それでは具体的にどの点に気を付けることで幸せに暮らすことができるのでしょうか。
過去の研究を精査すると、幸せに欠かせない要因として「人間関係、健康、お金」の3つがあげられます(*8)。中でも「心の通った人間関係の維持・向上」が人生の長期的な幸せに大きな影響を及ぼすことが指摘されています(*9)。「親ガチャ」の影響に対抗し、幸せに暮らしていくためにも、この点については注意していくことが重要となるでしょう。
(*1)Lefranc, A., Ojima, F., & Yoshida, T. (2014). Intergenerational earnings mobility in Japan among sons and daughters: levels and trends. Journal of Population Economics, 27, 91–134.
(*2)Ishii, K., Jia, ZX., & Yamamoto, I. (2024). Intergenerational persistence of subjective well-being: Evidence from Japanese panel survey on parents and children. International Society for Quality-of-Life Studies Annual Conference 2024, Kota Kinabalu, Malaysia.
(*3)Blanchflower, D. G. (2021). Is happiness U-shaped everywhere? Age and subjective well-being in 145 countries. Journal of Population Economics, 34, 575–624.
(*4)出生時の体重に関しては、Currie, J., & Moretti, E. (2007). Biology as destiny? short- and long-run determinants of intergenerational transmission of birth weight. Journal of Labour Economics, 25 (2), 231–264.
BMIに関しては、Classen, T. J. (2010). Measures of the intergenerational transmission of body mass index between mothers and their children in the United States, 1981–2004. Economics & Human Biology, 8 (1), 30–43.
(*5)Johnston, D. W., Schurer, S. S., & Michel, A. (2013). Exploring the intergenerational persistence of mental health: evidence from three generations. Journal of Health Economics, 32 (6), 1077–1089.
(*6)大石繁宏(2009)『幸せを科学する 心理学からわかったこと』新曜社
(*7)(*1)に記載のあるCYセルジーパリ大学のアルノー・ルフラン教授らの日本のデータを用いた研究によれば、親子の所得の類似性を示す世代間所得弾力性は、0.35となっていました。
(*8)Dolan, P., Peasgood, T., & White, M. (2008). Do we really know what makes us happy? A review of the economic literature on the factors associated with subjective well-being, Journal of Economic Psychology, 29(1), 94-122.
(*9)ロバート・ウォールディンガー、マーク・シュルツ(2023)『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』辰巳出版
1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。