学歴や所得に親子の類似性があることはすでに明らかになっている。では幸福度はどうか。拓殖大学教授の佐藤一磨さんは「日本で行われた最新の研究で、親の幸福度が高いと子どもの幸福度も高くなり、緩やかな相関関係があることがわかった」という――。
手をつないでいる親子
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親と子は似る

生物学的に見て、母親と父親の遺伝子が子に半分ずつ引き継がれるため、親子が似るのは自然なことです。実際に親子の間で顔立ち、身長、体形といった面が似ていることは多々あるでしょう。

このような親子の類似性は、外見だけでなく、中身でも見られます。

親と子の性格が似ているということはよく聞く話ですし、高学歴の親の子どもが高学歴になるというのは日常生活でもよく見かけます。また、高い運動能力を持つ親の子どもが優れた運動能力を示すこともよく聞くでしょう。プロスポーツ選手の中には、親も同じようなスポーツをやっており、何らかの結果を残していたというケースも珍しくありません。

所得の高い親の子どもは同じく高所得になりやすい

経済学の分野でも親子の類似性について、さまざまな研究が進められてきました。経済学者が特に興味を持っているのは、親子の所得水準の類似性です。具体的には、①所得の高い親の子どもは、やはり所得が高くなっているのか、②逆に、所得の低い親の子どもは、所得が低くなっているのか、③もしこれらの関係がある場合、その強さはどの程度なのか、という点が研究されてきました。

これらの問は「どの親の元に生まれるかによって、所得格差が生じてしまうのではないか」という疑問の答えにつながるため、多くの国で精力的に研究されています。実際の研究結果を見ると、「親の所得が高い場合、子どもの所得も高くなっている」という傾向が多くの国で確認されています(*1)

幸福度には生まれながらの格差があるのか

さて、最近、所得以外の親子の類似性に注目した興味深い研究が発表されました。その研究で注目しているのは、「親子の幸福度の類似性」です。具体的には、「幸福度の高い(低い)親の子どもは、同じく幸福度が高く(低く)なるのか」という点を検証しています。

もし幸福度の高い親の子どもも同じく幸福度が高くなる場合、生まれながらにして幸福度の格差が存在していることになります。この点は私たちの人生にも関わっており、非常に重要な論点です。はたして実態はどうなっているのでしょうか。

積み上げたコインとスマイルマーク
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親子の幸福度の類似性を計測するうえでの課題

分析を行ったのは、慶應義塾大学の石井加代子特任准教授、賈執孝特任助教、山本勲教授です。この研究は2024年6月に開催されたウェルビーイングに関する国際学会であるInternational Society for Quality-of-Life Studies (ISQOLS)で発表されました(*2)。実は親子の幸福度の類似性はこれまでほぼ分析されておらず、石井特任准教授らの分析が数少ない研究例となります。

ちなみに、このような親子の類似性を検証する場合、大きな問題となるのは、親と子が同じ年齢の時の幸福度のデータを取ることができるのか、という点です。

人は年齢によって直面する状況が大きく異なるため、幸福度も変化していきます。過去の研究によれば、私たちの幸福度は、40代に向かって低下し、平均して48.3歳の時に最低となり、その後、また上昇していきます(*3)。この結果、年齢と幸福度の関係は、ちょうどU字型となるわけです。このため、年齢の違う親子の幸福度の類似性をそのまま計測しても、適切な結果が得られない恐れがあります。

一番理想的なのは、親と子どもが同じ年齢の時の幸福度をそれぞれ計測し、比較する方法でしょう。しかし、かなり長期間にわたって調査を実施する必要があるため、データの収集が非常に大変です。

この課題に対して、石井特任准教授らは幸福度の年齢による変動を統計的手法によってうまく調整しました。この結果、次のような結論が得られました。

親の幸福度が高いと子どもの幸福度も高くなる

まず、日本では親の幸福度が高いと、子どもの幸福度も高くなり、親の幸福度が低いと子どもの幸福度も低くなる傾向があります。親子の幸福度には明確な正の相関関係があるわけです。

次に気になるのは、その強さです。親子の幸福度の関係の強さは、どの程度なのでしょうか。

石井特任准教授らの計測によれば、その相関の強さは0.25であり、より具体的には、親の幸福度が10%高くなると、子どもの幸福度が2.5%ほど高くなることがわかりました。

この結果から、「日本では親子の幸福度は確かに連動しているものの、その強さは比較的緩やか」だと言えるでしょう。

ちなみに、過去の海外の研究から親子の別の指標の類似性を見ると、出生時の体重の相関の強さは0.17~0.20で、肥満度を表す体格指数であるBMIの相関の強さは0.35でした(*4)。また、親子のメンタルヘルスの相関の強さは0.13~0.19となっています(*5)

これらの値と比較してみても、日本の親子の幸福度の相関の強さは、そこまでかけ離れているわけではありません。出生時の体重、BMI、メンタルヘルスと並んで、親子の幸福度は緩やかに連動していると言えるでしょう。

親子の幸福度はなぜ似てくるのか

日本では親子の幸福度に正の相関関係があるわけですが、これにはどのような理由があるのでしょうか。

まず考えられるのが遺伝による影響です。幸せの感じ方に遺伝的な要素が影響していると指摘されるため、親子の幸福度が似てくるのも、遺伝的要素が影響している可能性が高いと言えます(*6)

DNAのイメージ
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次に考えられるのが生活環境の影響です。親子は生活を共にするため、生活スタイルだけでなく、趣味、指向も似てきます。さまざまな行動を親から学んでいく中で、幸せの感じ方も親子で似てくる可能性があります。

これら以外では、親の学歴や所得といった社会経済的地位の影響が考えられます。親が高学歴で高所得であるほど、子どもの生活環境は良くなります。このような子どもは、学歴も高くなり、その結果として所得も高くなる可能性があります。冒頭でも述べたように、親の所得が高くなるほど、子どもの所得も高くなる傾向があるため、これが子どもの幸福度を向上させると考えられます(*7)

以上のような複合的な要因から、親子の幸福度の類似性が高まると考えられます。

幸せは自分で切り開く余地が十分にある

これまで見てきたとおり、親子の幸福度は連動しているため、どのような親の元に生まれるのかによって、子どもの幸福度の水準が決まってくると考えられます。ただし、その関連の強さは決して致命的なものではなく、部分的な「親ガチャ」にとどまると言えるでしょう。

この結果から、私たちの幸せは、自分たちで切り開く余地が十分にあると言えます。

私たちの人生の中で「幸せ」は重要な要素あり、これを自分でコントロールできる部分が多いというのは朗報です。

それでは具体的にどの点に気を付けることで幸せに暮らすことができるのでしょうか。

過去の研究を精査すると、幸せに欠かせない要因として「人間関係、健康、お金」の3つがあげられます(*8)。中でも「心の通った人間関係の維持・向上」が人生の長期的な幸せに大きな影響を及ぼすことが指摘されています(*9)。「親ガチャ」の影響に対抗し、幸せに暮らしていくためにも、この点については注意していくことが重要となるでしょう。

たくさんの人がつながった形に切った紙
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(*1)Lefranc, A., Ojima, F., & Yoshida, T. (2014). Intergenerational earnings mobility in Japan among sons and daughters: levels and trends. Journal of Population Economics, 27, 91–134.
(*2)Ishii, K., Jia, ZX., & Yamamoto, I. (2024). Intergenerational persistence of subjective well-being: Evidence from Japanese panel survey on parents and children. International Society for Quality-of-Life Studies Annual Conference 2024, Kota Kinabalu, Malaysia.
(*3)Blanchflower, D. G. (2021). Is happiness U-shaped everywhere? Age and subjective well-being in 145 countries. Journal of Population Economics, 34, 575–624.
(*4)出生時の体重に関しては、Currie, J., & Moretti, E. (2007). Biology as destiny? short- and long-run determinants of intergenerational transmission of birth weight. Journal of Labour Economics, 25 (2), 231–264.
BMIに関しては、Classen, T. J. (2010). Measures of the intergenerational transmission of body mass index between mothers and their children in the United States, 1981–2004. Economics & Human Biology, 8 (1), 30–43.
(*5)Johnston, D. W., Schurer, S. S., & Michel, A. (2013). Exploring the intergenerational persistence of mental health: evidence from three generations. Journal of Health Economics, 32 (6), 1077–1089.
(*6)大石繁宏(2009)『幸せを科学する 心理学からわかったこと』新曜社
(*7)(*1)に記載のあるCYセルジーパリ大学のアルノー・ルフラン教授らの日本のデータを用いた研究によれば、親子の所得の類似性を示す世代間所得弾力性は、0.35となっていました。
(*8)Dolan, P., Peasgood, T., & White, M. (2008). Do we really know what makes us happy? A review of the economic literature on the factors associated with subjective well-being, Journal of Economic Psychology, 29(1), 94-122.
(*9)ロバート・ウォールディンガー、マーク・シュルツ(2023)『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』辰巳出版