世界はアメリカ一極から多極化へ
株式投資の世界には「利大損小」という言葉があります。
これは100万円投資して、99万円損したら、残りの1万円から100万円にするのは非常に難しい。でも、100万円の損失を10万円に抑えて、90万円を原資にまた分散投資すれば、100万円を超えるかもしれない――そうした「いかに負けを小さく、そして利益を大きくするかが大事」といった意味です。
私自身、分散投資を徹底していますが、それは今後、地政学的に大きなうねりが起こり、これまでの世界のルールが変わるかもしれないと予想しているからです。
戦後80年、アメリカが世界の覇権を握ってきましたが、数々の戦争が重なり、アメリカはいよいよ体力が失われてきています。一方、中国が力をつけて、ロシアとタッグを組み始めている。つまり今は、アメリカ一極の世界から、多極化の世界への過渡期である。だからこそ、米ドルが今後も変わらず基軸通貨であり続けるかどうかはわからない――。私はこのように考えています。
実際、中東の石油は米ドルではなく、人民元で買えるようになったり、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)では、ドルを使わないしくみをつくろうという動きが起きています。また中国は、自国の通貨の価値を上げるためか、金をどんどん買い増しています。
つまり米ドルに今のように価値があるのは、ここ80年ぐらいの流れなのです。米ドル覇権がすぐに消滅することはないにせよ、リーマン・ショック級の経済ショックが頻発したら、アメリカ経済はどうなるかわかりません。
自給自足は究極のリスクヘッジ
ここからは私の予想です。今後、アメリカ一極が衰えて、世界が戦争状態になってしまったら、かなりの確率でインフレが加速すると思います。そうなると資源を持っている国が強い。たとえば食料や鉄鉱石などの資源が豊富なオーストラリアなどは、しっかりと生き残れるだろう。だから私は今、オーストラリアドルやオーストラリアドル建の債券に関心を持っています。
もちろんアメリカも資源がありますが、覇権から衰退する過程で何が起きるかわからないことを考えると、米国債の追加保有は様子見したいと考えています。
もしも台湾有事が起きれば、真っ先に飢えやすいのは東京だという試算もあります。それぐらい日本の食料自給率は低い。その自衛策として私は、趣味も兼ねて畑作業での作物づくりの準備に動いています。「自給自足」の準備です。東京にも手放された農地はたくさんあるので、共同でそこを耕し作物をつくり続けるのは、次世代にも価値があることだと。
戦争を知っているお年寄りたちに話を聞くと、今も畑を耕し、赤字であってもいつも使えるようにしている方がけっこういます。なぜなら昔、餓死しそうになった時代も、畑で作物をつくって生き延びてきたから。まさに自給自足は、究極のリスクヘッジなのです。
自給自足に加えて、「英語」と「学位」を持っていれば、国を出たとしても生きていける。私は強くそう思っています。
構成=池田純子
2008年に神戸大学経済学部(計量経済学専攻)を卒業。2016年に一橋大学大学院にてMBA in Financeを取得。一橋大学大学院博士後期課程在籍中。研究分野はコーポレートファイナンス。新卒後は、大和証券SMBC金融証券研究所(現:大和証券)でアナリストとして資本市場分析に携わる。債券トレーダーを経験したのち、2012年に独立。著書に『投資一年目のための経済と政治のニュースが面白いほどわかる本』(大和書房)などがある。