皇室典範の規定では、傍系の皇嗣について「やむを得ない特別の事由があるときは」皇籍離脱の可能性を認めている。これに対して、皇太子・皇太孫の場合はもちろん、そのような可能性はいっさい排除されている(第11条第2項)。これは大きな違いだ。

同じく皇室典範の規定では、本人に「故障」があって他の皇族が先に摂政に就任した場合、傍系の皇嗣ならその故障が解消されても、他の皇族がそのまま摂政を続ける。しかし、皇太子・皇太孫なら直ちに摂政に就く(第19条)。これも見逃せない違いだ。

②③のような重大な違いがあるので、先の特例法では「皇室典範に定める事項については、皇太子の例による」(第5条)との規定によってカバーしている。

「敬意」の程度も異なる

傍系の皇嗣のお住まいは一般の皇族と同じく「宮邸」と呼ばれる。具体的には、秋篠宮邸の大がかりな増改築工事が行われても、呼称は元のままだ。
皇太子なら「東宮御所」。天皇のお住まいの“御所”と共通する敬意を尽くした呼び方だ。

“外出”の呼び方も、傍系の皇嗣は一般皇族と同じく「お成り」。皇太子はより敬意を含んだ「行啓ぎょうけい」。皇后・皇太子妃なども同じ。

皇宮警察本部による護衛体制も、皇太子なら独立の担当セクション(平成時代における護衛第2課)が設けられる。これに対して、傍系の皇嗣だとそのような扱いはない(令和の護衛第2課は秋篠宮家だけでなく、他の各宮家もあわせて担当)。

具体的な護衛の在り方も、秋篠宮殿下がお車で移動される場合、前後に警察車両が1台ずつで交通規制がない。これに対して、平成時代における皇太子(今上陛下)の場合は、前後の警察車両1台ずつに加えて、先導の白バイ2台、後ろにも側衛車の白バイ2台、さらに交通規制あり、という形だった。

問題解決への唯一の道筋

以上のようであれば、内閣の意思によってまったく前例のない「立皇嗣の礼」が国事行為として行われ、その関連行事として皇嗣のしるしとされる「壺切御剣つぼきりのぎょけん」が天皇陛下から秋篠宮殿下に預けられても、それはあくまで秋篠宮殿下が“傍系の皇嗣”である事実に基づくものでしかない。それらの行事によって、秋篠宮殿下が次の天皇として即位されることが確定したので“ない”ことは、明らかだ。

したがって、現在の欠陥ルールによる皇位継承順序を固定化して考える必要はない。というより、それを固定化してルール自体の見直しに手をつけなければ、安定的な皇位継承は決して望めない。

国会は自らの附帯決議の原点に立ち返り、これまでのしがらみ排して「安定的な皇位継承」を可能にする最善の方策を、今からでも真剣に探るべきだ。そうすれば、天皇・皇后両陛下に敬宮としのみや(愛子内親王)殿下というお健やかでご聡明、優美にして親しみにあふれるお子様が現におられるにもかかわらず、ただ「女性だから」というだけの理由で皇位継承資格を認めず、「皇太子」にもなれない時代錯誤なルールを改正することこそが、問題解決への唯一の道筋であることに気づくに違いない。

高森 明勅(たかもり・あきのり)
神道学者、皇室研究者

1957年、岡山県生まれ。国学院大学文学部卒、同大学院博士課程単位取得。皇位継承儀礼の研究から出発し、日本史全体に関心を持ち現代の問題にも発言。『皇室典範に関する有識者会議』のヒアリングに応じる。拓殖大学客員教授などを歴任。現在、日本文化総合研究所代表。神道宗教学会理事。国学院大学講師。著書に『「女性天皇」の成立』『天皇「生前退位」の真実』『日本の10大天皇』『歴代天皇辞典』など。ホームページ「明快! 高森型録