「主婦+シニア+学生」で非正規の8割を占める

上記の数字を再度整理してみてみよう。

2120万人の非正規のうち、主婦が1113万人(52.4%)、シニア・高齢者(主婦を除く)が351万人(16.5%)、学生が218万人(10.3%)、ここまでで全体のほぼ8割だ。

さて、ここまでわかったところで、蓮舫氏のいう「非正規の待遇アップ」について考えてみよう。

これは、「給与・待遇の改善」と「正社員への登用」という二つの意味合いが含まれるものだろう。

ただ、少なくとも正社員への登用は、「短時間しか働くことが難しい」主婦・学生・高齢者にとっては、あまり関係のない話だ。

給与・待遇の改善については、もちろん良くなるに越したことはない。ただ、ここ10年、最低賃金は急上昇しており、政府は2030年までに1500円を目指すと明言している。しかも、折からの人手不足により、実質賃金は最賃以上に上昇している。この他に「都」単体で何かできたとしても、それは、現状の賃上げトレンドの中に埋もれてしまうに違いない。

加えて言えば、配偶者控除の問題が解決していないために、主婦層であれば、賃上げしても「年収の壁」(この年収を超えると、所得税・社会保険の負担が生じる)の手前で、勤務時間抑制を図るだろうから、総収入増は期待しづらい。かつての民主党政権時代と今では、就労環境があまりにも異なることへの認識不足と言わざるを得ないだろう。

【図表】非正規雇用者2120万人の内訳
※総務省「労働力調査」を基に筆者作成

エコはそこそこ裕福な人が考えること

加えて、蓮舫氏の狙う「生活困窮対策と環境対策」は、なかなか並立が難しいということも付言しておこう。生活に余裕のない人は、エコやサステナブルよりも、目の前の暮らしが第一だろう。多少負担は増えるが、未来を考えるというのは、そこそこ裕福な人たちの考えることだ。

対して、小池知事は「目の前」にある課題を列挙した。

すでに、未婚女性向けに「卵子凍結」、就学前児童を持つ家庭には「保育無償化」の対象拡大、学齢児に関しては「育児手当」と「医療無償化」の対象拡大、高等教育に関しても「高校無償化」を実施してきた。

今回公約の「保育無料化の拡大」「大学授業料補助」も、たぶん実現できるだろうと考える都民も多いはずだ。もちろん、こうした政策は、子どもや孫をもつ高齢世代にも響きが良い。着実に得点を重ねる小池知事に対して、失策を続ける蓮舫氏がとみに気がかりだ。

せっかく、国政では旧文通費改革で維新を怒らせたことにより、自民党包囲網が完成しつつある矢先に、都知事選で出鼻をくじかれることにならないことを祈る。

海老原 嗣生(えびはら・つぐお)
雇用ジャーナリスト

1964年生まれ。大手メーカーを経て、リクルート人材センター(現リクルートエージェント)入社。広告制作、新規事業企画、人事制度設計などに携わった後、リクルートワークス研究所へ出向、「Works」編集長に。専門は、人材マネジメント、経営マネジメント論など。2008年に、HRコンサルティング会社、ニッチモを立ち上げ、 代表取締役に就任。リクルートエージェント社フェローとして、同社発行の人事・経営誌「HRmics」の編集長を務める。週刊「モーニング」(講談社)に連載され、ドラマ化もされた(テレビ朝日系)漫画、『エンゼルバンク』の“カリスマ転職代理人、海老沢康生”のモデル。ヒューマネージ顧問。著書に『雇用の常識「本当に見えるウソ」』、『面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと』(ともにプレジデント社)、『学歴の耐えられない軽さ』『課長になったらクビにはならない』(ともに朝日新聞出版)、『「若者はかわいそう」論のウソ』(扶桑社新書)などがある。