中国に狙われるのは台湾ではなくフィリピン

中国が「外国勢力が入ってこないように」と考えるのは結構だが、逆に、中国が海洋進出、とくに太平洋に出ていくにあたって、この2つの線、とりわけ第一列島線にあるものは、目の上のたんこぶになっているのも事実だ。日本、台湾、フィリピンを結んだ第一列島線から外に、中国の海軍が出ていくことも、また難しいのである。

米国から見れば、中国による太平洋進出を、日本と台湾、フィリピンがゲートキーパーとなって防いでいるようにも見える。

では、中国がこの第一列島線を越えて外洋に出られるようにするためには、どうすればいいのか。

日本を相手に戦うのは、中国にとってもいささか分が悪いだろう。もし日本に対して本気で戦闘を仕掛けるようなことがあれば、少なくとも現在の日米安全保障条約が機能している限り、日本の自衛隊に加え、米国軍も黙ってはいない。日米を相手に戦闘を行う事態は、中国の人民解放軍といえども、恐らく望んではいないだろう。

それは台湾に対しても同様だ。台湾も決して弱くはない軍隊を持っているし、その背後には米国が控えている。

そうなると、日本、台湾、フィリピンのうち、最も突きやすいのはフィリピンということになる。昨今、南シナ海の係争海域をめぐり、中国海警局の船とフィリピン沿岸警備隊の衝突や放水による損傷といったニュースが増えている。それはこのような背景も影響しているのだ。

フィリピン・セブ市のジプニー
写真=iStock.com/Jui-Chi Chan
※写真はイメージです

中国に狙われるフィリピンのチャンスとは

1980年代、フィリピンには1万5000人の米兵が駐留し、クラーク空軍基地とスービック海軍基地という、アジアで最大の米軍基地が2つも置かれていた。

1990年代になると、ベトナム戦争は昔話になり、冷戦も終結した。その頃、中国の勢力はまだ今のように強力なものではなく、懸念しなければならないほどの存在感はなかった。

米軍は、1992年にフィリピンの軍事拠点から撤収した。しかし、それから30年あまりの時間が経過する中で、フィリピンを取り巻く環境は大きく変わった。

中国はこの30年間で強大な勢力となり、2014年以降、中国は南シナ海に、10カ所以上の人工島をつくった。そのうちの一つであるミスチーフ礁は、フィリピンの排他的経済水域(EEZ)内にある。フィリピンにとって中国は、まさに「そこにある危機」となっているのだ。

そして、この状況はフィリピンにとって、危機であるのと同時に、実はチャンスでもある。

まず、米国との軍事的なつながりが強まった。2023年2月、米国はフィリピンで新しく、4カ所の軍事基地の使用権を得たのである。