キーエンス創業者は高卒だった

「仕事」が好きな人や、生きていく中で「仕事」というものを重視する人なら、誰しもが、自分が手がけた仕事である程度は大きな成果をあげたいでしょう。そして、仕事の成果は、全てではありませんが、かなり多くの場合金銭で評価されます。

ですから、話を簡単にするために敢えて言うなら、長者番付に載るような人は間違いなく仕事で大きな成果をあげた人です。そこで、フォーブスジャパンが公表した2023年版の「日本長者番付」を見てみましょう。

最終学歴が「高卒」の人が、何と上位50人中11人を占めているのです。この事実を「勝ち組・負け組」論者たちはどう説明するのでしょうか?

長者番付第1位のユニクロの柳井さんは、子供の頃はまあボンボンの部類で、大学も一流校の早稲田大学ですが、前出の第2位の滝崎武光さん(キーエンスの創業者)は、兵庫県立の尼崎工業高校卒です。

私は滝崎さんとは御面識はありませんが、話を聞くだけで頭の下がる思いです。彼は塾通いなどしたことはなく、工業高校を出て町工場に就職したのですから、「勝ち組・負け組」論者たちなら躊躇せず「負け組」に分類するでしょう。

しかし、この人は「正しい心」と「適切な判断力」を持ち、目の前にある仕事をすべて合理的に完璧にこなし、常に細やかに周囲に目を配り、常に上を目指し、創意工夫し、やるべきことをやり、やってはならないことをやらず、ついに世界に冠たるキーエンスを「自分がいなくても誰でも経営できる会社」へと育て上げたのです。

彼が「勝ち組」の中の「勝ち組」であることに、異論を唱える人がいるでしょうか?

老後の質で人生は逆転できる

勤め先に恵まれず(あるいは上司に恵まれず)、今はたまたま悲惨な生活を強いられている人たちに対しては、私は声を大にして言いたいと思います。

松本徹三『仕事が好きで何が悪い! 生涯現役で最高に楽しく働く方法』(朝日新書)
松本徹三『仕事が好きで何が悪い! 生涯現役で最高に楽しく働く方法』(朝日新書)

「あなたは決して『負け組』なんかじゃありません。世の中は急速に変わりつつありますし、もしかしたら思わぬ幸運が巡ってくるかもしれません。常に『正しい心』を持ち、全てを合理的に考え、機会があればいつでも俊敏に動けるように準備しておきましょう。そうすれば、老後の生活の質で『逆転』ということも十分あり得ます」

逆に「自分は勝ち組だな」と思って、少しいい気になっている人がいたら、私は忠告します。

「世の中は急速に変わりつつありますよ。今の状況がいつまでも続くとは思わない方が良いでしょう。しかも老後は長い。現在の状況の本質を見抜き、将来を予測し、原点に戻って、長い老後の生き方を考え始めておいた方がいいですよ」と。

手を掲げて喜ぶシニアビジネスマン
写真=iStock.com/DjelicS
※写真はイメージです

若い時は「勢いに乗る」ことが必要です。目立ちたい気持ちや、虚栄心があるのも当然です。斬新なアイデアで一山当てて、思いもかけぬ大金を手にし、派手に使って経済を活性化してくれたら、私も率直に「偉いな。有難うさん」と称賛するのにやぶさかではありません。

でも、そういう人たちが「自分は勝ち組」などと嘯いて、普通に生きている人たちを馬鹿にしたら、私は少しムカつきます。

松本 徹三(まつもと・てつぞう)
実業家・作家

1939年、東京生まれ。京都大学法学部卒業。伊藤忠商事、クアルコム、ソフトバンクモバイルで通算51年間勤務。その後7年間は海外で仕事をした後、日本全国のレーダー施設で取得した海面情報を様々な需要家に提供するORNIS株式会社を82歳で創業。著書に『AIが神になる日 シンギュラリティーが人類を救う』(SBクリエイティブ)、『2022年 地軸大変動』(早川書房)など。