「自分で選んでそうしている」という感覚を持ってもらう
人間は誰しも、強制されるのはいやなものです。特に親の場合は、子供から強制されて行動を変えることには抵抗感が強いでしょう。子供が「エアコンをつけろ」と言い続けるのは、溝が深まるばかりになります。
ですから、親が「自分で選んでそうした」という感覚を持ってもらえるような伝え方をするといいでしょう。
たとえば、「暑い時には、窓を開けるのもいいし、扇風機を使うのもいい。打ち水をしてもいいし、遮光カーテンやすだれを使うのもいい。公民館や図書館など、エアコンが効いたところに涼みに行くのもいい。ただし室温が28度超えたら、エアコンをつけよう」と伝えます。
単に「室温が28度超えたら、エアコンをつけて」と言うだけだと、選択肢がなさそうですから、ほぼ強制になってしまいます。その前に、さまざまな暑さ対策の選択肢を提示することに重点をおいてください。こうして、本人が主体性を持って、「自分で選んでそうしている」という感覚を持ってもらうようにしましょう。
ここでは、「子供や孫と会う約束をする」「褒めてモチベーションを上げる」「自分で選んでそうしているという感覚を持ってもらう」の3つを挙げましたが、いずれも、親子のコミュニケーションがカギを握ります。親が普段、どんな行動をしているのか、どんなことで嬉しいと思うのか、どんな言い方をすると耳を傾けてくれるのかを知っておかないと、的外れな言い方になりかねません。
1年のうち、エアコンが必要な期間は長くなっていますし、今後もこの傾向は変わりそうにありませんから、毎年夏になると親の熱中症を心配する必要は出てきます。親の考えや生活スタイルを尊重しながら、最適なやり方を探してほしいと思います。
認知症の兆候にも気を付ける
冒頭でお伝えしたように、年をとると暑さに対する感受性が低下しますが、認知機能が衰えると、さらに感覚が鈍化します。自分の体調の変化にも気付きにくくなる可能性があります。
真夏なのに、コートを着込んで外出したり、厚い冬用の布団で寝たりする高齢者もいます。こうしたちぐはぐな行動の背景には、認知症が潜んでいる可能性があります。帰省の機会が限られている人は、こうした点も頭の片隅に置いておき、お盆など、夏の様子も見るようにするとよいでしょう。
どうしても自分の親のことになると、「自分の親は大丈夫だろう」「本当に暑くなれば、エアコンくらいつけるだろう」と思ってしまうものです。しかし、昨今の夏の暑さは、私たちの親世代も経験したことがないレベルのものです。子供世代も認識を変え、親が元気で夏を乗り切ることができるよう、サポートをしてほしいと思います。
構成=池田純子
産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。