老親の熱中症を防ぐにはどうしたらいいのか。精神科医の井上智介さんは「高齢者は、体が熱中症になりやすいことに加え、暑くてもエアコンをつけない人も多い。しかし、熱中症の危険を訴えて理屈で説得しようとしても難しい。親にとって、『アメとムチ』のうちの『アメ』は何かを考えて、伝え方を工夫する必要がある」という――。
暑さに苦しむ高齢者
写真=iStock.com/Yau Ming Low
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高齢者は熱中症になりやすい

今年の夏も、全国的に猛暑になりそうです。

昨年夏(5月から9月)に熱中症で救急搬送された人は9万人を超え、そのうち約5万人、過半数が65歳以上の高齢者でした。

なぜ高齢者は熱中症になりやすいのでしょうか。

まず、高齢者の体は、もともと熱中症になりやすくなっています。筋肉は、体の熱をつくるほか、体の水分をためておくタンクとしての役割もあるのですが、人の体は加齢にともなって筋肉が落ちます。さらに、のどの渇きも感じにくくなるので、水分補給を怠りやすくなります。このため、筋肉の少ない高齢者は、体内の水分を保持できず、体温の調節をする機能が落ちて、熱中症になりやすいのです。

さらに、年をとると、暑さや寒さを感じ取る感覚も鈍くなります。このため、暑さや寒さに応じて着るものを変えたり、空調で気温を調節する力も低下するのです。

自分の体で暑さや寒さを感じることが難しいので、まずは、表示が大きくて見えやすい、温度計を設置してあげるといいでしょう。体感に頼れない分、室温調節が必要かどうかを温度計の数字ではっきりと「見える化」できるようにしてあげてください。

なかなかエアコンをつけないのはなぜか

しかし、温度計で、気温が上昇しているのがわかっていても、なかなかエアコンをつけない高齢者は多いようです。理由は大きく3つあります。

1つ目は「電気代を節約したいから」。高齢者は、年金暮らしの人が多く、収入が安定していない人もいます。ものの値段も上がっていますし、電気代も年々上がっており、今年は特に値上がりが大きくなっています。そのため、「多少暑くても、我慢すればいい」と、エアコンをなかなか使わないというわけです。

これについては、子供世代も電気代の負担増は苦しいところではありますが、場合によっては金銭的な援助を考える必要があるかもしれません。

2つ目は、「クーラーは体に悪い」という思い込みです。昔から「クーラー病」という言葉があるように、「クーラーは体が冷えるので体によくない」と刷り込まれている高齢者は少なくありません。実際、筋肉の少ない高齢者には、ちょっとした冷風も寒く感じてしまうことがあります。本当は、猛暑が続く近年の夏は、エアコンを上手に使わないことの方が体に良くないのですが、それでも「体によくないから」と、エアコンを使わないことがあるのです。