周囲に理解されず、余計に悩みを深めてしまう
カサンドラ症候群は、職場でも家庭でも起こりえますが、圧倒的に多いのが家庭です。
そして男女で言うと、カサンドラ症候群になるのは女性の方が多いです。発達障害は女性よりも男性に多いことに加えて、まだまだ根強く残る男性中心の価値観が強い社会や家庭内では、どうしても女性から自己主張するのが苦手であることが背景にあると考えられます。
上司や部下が発達障害で困っている場合は、人事部や産業医に相談したりできますし、異動などで相手と離れることもあります。私自身も産業医の立場から、発達障害の可能性がある社員に対しては、受診してはどうかと勧めることがあります。
しかし、一つ屋根の下に暮らす配偶者やパートナーが発達障害の特性を持つ場合は、簡単に関係を切ることができず、逃げ場所もありません。友人や身内に相談してみても、「よくあることだ」「誰でも多かれ少なかれそういう傾向はあるものだ」と、なかなかわかってもらえず、「こんなことを気に病む自分が悪いのではないか」と、余計に悩みを深めてしまうことが多いようです。結局、ストレスを自分で抱え込み、メンタルヘルスに不調をきたしてしまうのです。
本人に悪気はなく、自分では何も困っていないことも多い
発達障害は、そもそも一つの病気があるわけではなく、発達障害という一つの大きなカテゴリーの中に「ADHD(注意欠如・多動症)」「ADD(注意欠陥障害)」「ASD(自閉症スペクトラム症)」などの特性が存在します。「100%ADHD」という人はめったにおらず、いろいろな特性がさまざまな割合で組み合わさっていることが大半です。そして、カサンドラ症候群に比較的関係しやすいのは、コミュニケーションや対人関係に困難を持つ傾向のあるASDの特性だといわれています。
カサンドラ症候群の症状は多岐にわたります。「配偶者やパートナーがもうすぐ帰ってくる」と想像するだけで頭痛や腹痛がする、動悸がする、息苦しくなる。また、憂鬱な気持ちが消えない、夜眠れなくなるといった状態になったり、倦怠感、疲労感が取れない場合もあります。
カサンドラ症候群で精神科を受診される方の中には、「原因となっている相手(パートナーや配偶者)を受診させて、発達障害の診断や治療を受けさせて、言動を変えさせたい」と言う人も多いですが、これは簡単なことではありません。本人に悪気はないうえ、自分では何も困っていないことも多く、病院に連れてこられて病人扱いされることに反発し、かえってパートナーとの溝を深めてしまうこともあります。また、発達障害は単なる「病気」とはいえず、「治る」ものではなく、本人や周囲の人が特性を理解し、お互いがストレスを抱えない対処法を学んでいくしかありません。
では、パートナーなど身近な人が発達障害の特性を持っている場合、どうすればカサンドラ症候群を予防したり、症状を緩和したりできるのでしょうか。そのためには大きく3つのステップがあります。