「あなたの家庭の問題」を解決することは社会のためになる

ちなみに、「我が家の場合、週1日シッターにお願いすることさえも、夫が許してくれない」という声も聞かれそうですね。でも、前述の出生動向調査で見る限り、現在だと育児家庭で、夫が「シッターを利用しても良い」と考える割合は74%にもなります。夫がシッターを許さないというのは、あなたの家庭の問題なのです。

ここまで何度か、「あなたの家庭の問題」という冷めた言葉で、突き放したような表現をしてきました。この点、お気に障ったら深くお詫びします。ただ、世の家庭の標準は、イクメンも普通、家事もやる、シッターももちろんOKと、ずいぶん進歩して、昭和は遠い存在になりつつあります。だからこそ、厳しいのですが、家庭内で夫に「もっとやれ!」と勇気をもって交渉してほしいのです。そうすることにより、料理男子やイクメンが増え、ひとたび家事育児を経験すると、「家事って大変だなあ」とさらに理解が増し、シッター導入にも前向きになる、という好循環が生まれます。

それは、企業にとっても同じことです。女性ばかりが家事・育児をする場合、企業は「女性を採用すると、育休や時短で働きが悪い」と思い、採用時に男性を優先するようになるでしょう。それが平成前期までの企業の姿です。ところが、「男性を採用しても、イクメンで忙しいし、残業もそんなにさせられない」となると、企業もあえて男性採用にこだわらなくなります。同時に、働き方改革を推進し、時短やリモート化などを推進するでしょう。

つまり、あなたの家庭で「夫が家事・育児に参画する」ことが、ここから先、社会をさらに変えて行く原動力に他ならないということです。

海老原 嗣生(えびはら・つぐお)
雇用ジャーナリスト

1964年生まれ。大手メーカーを経て、リクルート人材センター(現リクルートエージェント)入社。広告制作、新規事業企画、人事制度設計などに携わった後、リクルートワークス研究所へ出向、「Works」編集長に。専門は、人材マネジメント、経営マネジメント論など。2008年に、HRコンサルティング会社、ニッチモを立ち上げ、 代表取締役に就任。リクルートエージェント社フェローとして、同社発行の人事・経営誌「HRmics」の編集長を務める。週刊「モーニング」(講談社)に連載され、ドラマ化もされた(テレビ朝日系)漫画、『エンゼルバンク』の“カリスマ転職代理人、海老沢康生”のモデル。ヒューマネージ顧問。著書に『雇用の常識「本当に見えるウソ」』、『面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと』(ともにプレジデント社)、『学歴の耐えられない軽さ』『課長になったらクビにはならない』(ともに朝日新聞出版)、『「若者はかわいそう」論のウソ』(扶桑社新書)などがある。