「ゲートボールやらないのは、日曜だけだ」

ところで日本では今、何歳ぐらいまで生きるのが「理想」と考えられているのでしょうか。

センチネリアン、すなわち100歳という節目は、最近ますます身近なものになっています。そんな流れがあるからでしょう、2023年から「100歳に聞く。〜人生最高の瞬間〜」というバラエティ番組の放映も始まりました。ある程度の視聴率が取れる、つまりこのような情報を望む視聴者がいるからこそ生まれた番組でしょうし、背景には信頼のおけるスポンサーもついていることでしょう。要するに「百寿者に興味を持つ人たちの存在」を、この番組は示してくれています。

ある日の放送で、沖縄、すなわち世界の5大ブルーゾーン(長寿で知られる地域)の一つが取り上げられていましたが、取材チームが訪ねた先では、お年寄りが数人集まってゲートボールを楽しんでいました。その中の最年少は89歳。最年長ではなく、最年少が、です。

「ゲートボールは、毎週何曜日にやってるのですか」と訊ねると、

「ゲートボールやらないのは、日曜だけだ」と普通に返ってくる。

100歳のおばあちゃんの家を訪ねると、玄関はカギがかかっておらず、いつも誰かが出入りしている。要するにおばあちゃんの様子を、周囲の人たちが自然に見守っているわけです。

おばあちゃんに「何してるときが、一番楽しいですか」と訊くと、「テレビ見てるときだな」と答える。食事にしても、カップラーメンを平気で食べていたりする。

この人たちは、長生きしようと思って頑張っているわけでは、全くない。周りの人たちと仲良くしながら、自然に楽しく生きているだけです。

海岸に立つ笑顔の高齢女性4人のグループ
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです

老化は“老人問題”にあらず

もしかすると、「何歳まで生きるのがいいか」などという目標設定は必要ない。そんなことを気にせず、いつのまにか100歳を超えている。そんな老い方が、一つの理想かもしれません。

早野元詞『エイジング革命 250歳まで人が生きる日』(朝日新書)
早野元詞『エイジング革命 250歳まで人が生きる日』(朝日新書)

少々辛口な言い回しに、「100歳まで生きたければ、100歳まで生きたいと思わせることをすべてやめること」という表現もありますが、老い方は生き方に他ならず、「どう老いるかは、どう生きるか」なのかもしれません。

だとすれば、老化は、決して老人問題ではありません。

老いた人々に特化した難題や難問ではなく、老化抑制とは、全世代かつ全性別の健康課題であるといえるでしょう。

むしろそれは、喜ばしいことです。なぜなら、全世代の健康問題となることで、老化抑制は対症療法ではなく積極的な予防療法になるからです。そうなれば医療保険機関の認可も善処され、未来における若返りなどの技術が一部の富裕層に限られたものではなく、AIのように社会の中で広く活用されていくのではないでしょうか。

早野 元詞(はやの・もとし)
生命科学者

1982年、熊本県生まれ。慶應義塾大学医学部整形外科学教室特任講師。老化、エピジェネティクスが専門。2005年、熊本大学理学部卒業。2011年、東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカルゲノム専攻にて博士号(生命科学)取得。2013年より米ハーバード大学医学大学院に留学し、同大学院フェロー及びヒューマンフロンティアサイエンスプログラムフェローを経て、2017年より慶應義塾大学医学部眼科学教室特任講師に着任。同大学理工学部システムデザイン工学科および医学部精神・神経学教室特任講師を経て、2023年4月より現職。『エイジング革命 250歳まで人が生きる日』(朝日新書)は初著作となる。