第一火災海上保険の破綻は思わぬところに影響した

住宅金融公庫の火災保険は、損害保険会社21社(当時)の共同保険だった。共同保険とは、冒頭で述べた通り、再保険と並ぶリスク分散の手法である。1つの保険規約を複数の損害保険会社が分担するもので、たとえば、幹事会社のA社が保険料収入の50%、非幹事のB社が30%、C社が20%という形態を取る。そして、保険金が発生した場合は、その割合に応じて保険金を支払う。

つまり、第一火災海上保険が破綻する前に契約した人は、火災で保険金が発生する場合、破綻した第一火災海上保険分の保険金(2.6%)が受け取れないのだ。

大成火災海上保険は破綻後に、損害保険ジャパンに事実上救済合併されたのだが、第一火災海上保険には救済する企業があらわれなかった。

当時、保険業界は厳しかったからということもあるし、第一火災海上保険が保有する保険契約の内容が悪かったのかも知れない。しかし、最大の原因は、第一火災海上保険が相互会社だったからだと思われる。

日本生命など相互会社のメリットとデメリット

相互会社とは、保険契約の保険料を原資とする保険会社特有の会社形態である。戦後、日本の生命保険会社のほとんどが相互会社となり、今でも日本生命保険や住友生命保険は相互会社だ。一方、第一生命保険や大同生命保険・太陽生命保険などは株式会社に転換している。損害保険会社も戦後設立された何社かが相互会社として設立されたが、現在はすべて株式会社になっている。

われわれは日本生命保険や住友生命保険が相互会社であるか、株式会社であるかを認識なんてしていないと思う。相互会社は買収などの恐れがないので、経営に問題がなければ、むしろ優れた経営形態である。しかし、相互会社の最大のデメリットは、株式会社に比べて資金調達が難しく、また資本提携や買収・合併が難しいことである。

株式会社は株式を発行して資金を調達することができ、株式の数十%を持ってもらうことで経営支援が望める。一方、相互会社では株式発行のような手はなく、株式を持ってもらうこともできない。企業を救済する場合、数十%の株式を取得して当該企業を法的に統治できることが大前提になるのだが、相互会社ではそれができない。

株式を上場した場合、意図せざる大株主が登場して、経営者と対立したり、経営が混乱したりする場合がある。相互会社にそんな心配は全くないのだが、いざ経営が傾いた時には救済してもらう方法が少ない。

だから、第一火災海上保険も救済されなかったし、同様に相互会社だった日本の生命保険会社がバブル崩壊後にバタバタと経営破綻してしまったのである。

菊地 浩之(きくち・ひろゆき)
経営史学者・系図研究者

1963年北海道生まれ。國學院大學経済学部を卒業後、ソフトウェア会社に入社。勤務の傍ら、論文・著作を発表。専門は企業集団、企業系列の研究。2005~06年、明治学院大学経済学部非常勤講師を兼務。06年、國學院大學博士(経済学)号を取得。著書に『企業集団の形成と解体』(日本経済評論社)、『日本の地方財閥30家』(平凡社新書)、『最新版 日本の15大財閥』『織田家臣団の系図』『豊臣家臣団の系図』『徳川家臣団の系図』(角川新書)、『三菱グループの研究』(洋泉社歴史新書)など多数。