“名門”石油業界から漏れ出たトンデモ話
「石油某社では、営業職女性社員が役員から慰労会の席でダンスに誘われ、『愛人になって』と耳元でささやかれたのを『幸せな結婚をしておりますので』ときっぱり断ったら、同じ社内の夫が地方転勤になり、自分が秘書課へ転属になりかけたので上司が大慌てで火消しをした」
風のうわさだが、20年ほど前にそんなトンデモ話を聞いたことがある。製造業に運輸業、小売りすら、あらゆる業界が石油なしでは立ち行かない。そんな「産業の血液」と呼ばれた石油を扱う企業は、もともと国策に非常に近いエネルギー系企業の中でも、戦後長らく日本経済を支え続ける重要なプレーヤーだ。
特に日本経済が好調の時代、石油業界は羽振りの良さや海外イメージに加え、民間企業でありながら半分は役所のような盤石の安定性とエリート意識とで、事実上半官半民状態の名門企業群だったのである。
「花嫁要員」だった女性社員
かつて、日本の大手企業には女性社員の採用枠に「一般職」と「総合職」の区別を設けるという、根強い習慣があった。一般職で採用されるのは有名女子短大卒などの女子学生で、彼女たちは男性社員のアシスタント的立場で事務職に従事し、やがて社内結婚をして「寿退職」していく。それが幸せの典型であり、女性としての成功であるともされた。
女性一般職社員は、「花嫁要員」。その時代の女性採用がどういう意識や基準で行われていたのか、そして女性社員の存在が組織の中でどのような位置付けと認識のもとにあったのか、想像に難くない。
「産業の血液」の販売を一手に握った、いわば経済界の勝ち組たる石油業界。男性社員が女性社員のプールから花嫁を「物色」して手に入れるという構図、そして女性社員への「そういう類いの視線」が、好景気時代の記憶とともに一種の成功バイアスで色濃く残っていたはずだ。