心理的安全性の高さが会議を「拓く場」にする

効率を重視する会議は、あらかじめシナリオが用意され、予定調和型に陥りやすい。結論を想定せず、シナリオを用意せず、本気で議論すれば、効率は圧倒的に悪くなる。白熱した議論のコーディネートは、スキルと経験が必要であるから簡単にできないのだ。

風土改革の最前線では、シナリオ通りの会議を「閉じる場」と呼び、活発な議論が起こる会議を「拓く場」と呼んでいる。「閉じる場」では、何ごとも「できるか」「できないか」を基準に検討される。スキルと経験を積み重ねることで、「拓く場」になる「必要か」「意味があるか」という思考が醸成される。

トヨタの労使協議会でも、現場リーダーの工長が上司である課長にものが言いにくいという問題が取り上げられていた。トヨタでさえ、会議はまだまだ「閉じる場」が残るのだろう。誰もが安心してすべての情報を伝えられる会議、つまり心理的安全性が高い会議ではないということだ。

ダイハツはじめ不正問題を起こした3社で、どれだけ「主権を現場に」が浸透していくか、今後に注目したい。

構成=伊原直司

柴田 昌治(しばた・まさはる)
プロセスデザイナー代表、創業者

1979年、東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。86年、日本企業の風土・体質改革を専門に行なうスコラ・コンサルトを設立。30有余年にわたる改革の現場経験の中から、タテマエ優先の“調整文化”を象徴する〈閉じる場〉が培養する、社員の思考と行動の縛りを〈拓く場〉を経験することで緩和し、変化・成長する人の創造性によって揺らぎながら組織を進化させる方法論〈プロセスデザイン〉を結実させてきた。『なぜ会社は変われないのか』『トヨタ式最強の経営(共著)』『なぜ社員はやる気をなくしているのか』『どうやって社員が会社を変えたのか(共著)』『なぜ、それでも会社は変われないのか』(いずれも日本経済新聞出版)、『成果を出す会社はどう考えどう動くのか』(日経BP社)、『日本企業の組織風土改革』(PHPビジネス新書)、『日本的「勤勉」のワナ まじめに働いてもなぜ報われないのか』(朝日新書)など著書多数。