長崎の実家に戻ったときの違和感

30代前半になったころ、母親の介護をきっかけに地元・長崎県に帰った。

地元に戻って驚いたのは、自分と同じ未婚女性が周囲には誰ひとりとしていなかったことだ。同窓会に出席しても、「旦那さんが帰りを待っているんじゃないの?」「子どもはいくつなの?」と、結婚して子どもがいることが当然として扱われる。結婚していないことを告げると、怪訝な顔をされる。そんな風に扱われることが不思議でならなかったという。

Kさんは、10年ほど東京で働いていた経験がある。東京にいたときは周囲に結婚している人自体が少なく、未婚女性自体珍しいものではない。実際に、婚姻歴の有無で人の態度が変わることもないだろう。女性は結婚して子どもを産むものだという価値観や、未婚女性を変わった存在として扱うのも、田舎ならどこでも“あるある”な光景かもしれない。しかし、東京で過ごした10年間があるからこそ、Kさんのなかでの結婚観が変化し、結婚や子どもの有無で怪訝な顔をされることに対して違和感を覚えたのではないか。

自分だけのペースで生活できる幸せ

しかしながら、2020年国勢調査によると、女性の生涯未婚率(50歳時未婚率)は17.8%となっている。過去最高の数値といえど4分の3以上は人生で一度は結婚を経験しているため、確率論として結婚して子どもがいることが前提で話が進んでいくのは自然なことだろう。

友人たちとの会話の内容が子育ての悩みや家庭のできごと一色になり、一方的に話を聞いているだけになると、ときおり寂しさを感じることもあった。結婚生活の愚痴や不満も多い。そのなかで、「私は、きっと人と一緒に生活ができないんだろうな」と、考えたそうだ。

結婚して家庭を持つということは、生活をともにしなければならない。家にいる間は、ほとんどの時間を一緒に過ごす必要がある。パートナーとお互いに譲歩し合わなければならない場面もあるだろう。料理や掃除、洗濯の頻度も多くなり、自分だけの問題ではなくなる。子どもがいれば、さらに育児にも追われ、自分だけのリズム・スペースでの生活が難しくなる。

Kさんは、結婚した同級生の話を聞き、人と生活していく難しさを感じながら「自由な時間を持って、自分だけのペースで生活するのが好き」だと改めて思った。自分のリズムやスペースを守りながら生きていくことは、自分らしさを大切にすることにつながるのだと気付いたそうだ。

ひとりが好きだ。それほど苦ではない。もともと相手の望む姿に合わせがちなタイプだったからこそ、今は結婚せずに、ひとりで自由に生活ができていることに大きな幸せを感じている。