他者と同じことをしていたら個性は育たないのか
このような「外界と調和するつもりがない」というマインドが生じる要因の一つに、個性に関する誤った認識があると私は考えています。
個性を「他の人と違うこと」だと思っている人がいます。だからこそ、「周囲に合わせること」に否定的な感情が生じるわけですし、そう信じて疑わない人ほど、学校で一斉教育をすることや、他者と同じことをすることを「個性を損なう」と考えがちです。
ですが、個性とはそういうものなのでしょうか? 他者と同じことをしていたら個性は本当に育たないのでしょうか? 私は人間の内側にある個性というものは、そんなことで損なわれるほどヤワなものだと考えていません。
他の人と同じことをしていたとしても滲み出る
歌舞伎や落語を思い浮かべてください。これらの「内容」はかなりの年月変わっていません。多くの役者や落語家が「同じ内容」をずっとやり続けているはずです。しかし、演じる役者や落語家によって「違い」があります。だからこそ「あの人のにらみは良いねぇ」とか「この人の人情噺はひと味違う」などの感想が出てくるわけです。つまり、「同じ内容」をしていても、その人の「らしさ」や「個性」が滲み出てくるのです。
個性とはそういうものです。他の人と同じことをしているとか、そんな表面的なことで押さえ込めるようなものではありません。個性とは「他の人と同じことをしていたとしても滲み出てきてしまうもの」なんです。
もちろん、個性の発見は一日にしてならずです。ある程度の期間、周囲と同じことをしていないと「周囲とは異なるところ」「他者とは一味違うところ」がわかるはずはありません。社会から提示されたことに取り組み、反復を繰り返すという日々が必要になりますし、それ自体は楽しいことばかりではないでしょう。しかし、こうした期間があるからこそ「他者と同じことをする中で発見された個性」を持つ人は、社会の中で「孤立していない」と言えます。
しかし、「他者と同じことをしていては個性が育たない」と思っている人は、他者との関係を重視しなくなります。他者と関わっていれば、そのぶん個性から遠のくと考えているわけですからね。ですが、他者との関係性を前提としない「個性」というものは、たとえ本当にオリジナリティのあるものだったとしても「孤立」の匂いがするものになってしまいます。