「攻撃に攻撃」の悪循環

私はスクールカウンセラーをやっていますが、中学生の子どもが親に悪態をついて、その親から「頭にきて、イライラして、仕方ないんですけど……」と相談を受けることがあります。「クソジジイ、クソババア」と子どもから言われたときに、親が「なんだこのクソガキ、だったら出て行け!」と応戦して、本当にお子さんが家出をしてしまうケースは少なくありません。

攻撃に攻撃で返すと悪循環が固定化してしまいます。これは考えればすぐにわかることです。しかし渦中にいる本人たちは、カーッとなってしまっているので気づかないのです。読者のみなさんであれば、「攻撃に攻撃で返す」ことの愚かさが簡単に見えてくるのではないでしょうか。

ケース4の改善例
「なんで、そんなことするのよ。バカじゃないのまったく!」
「……バカで悪かったな……」
「(自分のイライラした気持ちが止まらなくなっていることに気づいて)ごめんね! お母さんが言い過ぎたわ。お母さん、今日なんかちょっとイライラしちゃってて……。あなたはバカなんかじゃないからね」

このように、親のほうが「一歩引いて」「大人」になって、悪循環から身を退けることが大切です。

攻撃に攻撃で返すという最悪のパターンが続くと、「あんたなんか産むんじゃなかった」「こっちだって、あんたの子どもになんか、なりたくなかったよ」と、こころにもない言葉のやり取りがエスカレートしがちです。最悪の場合、5年、10年、20年と親子の関係が断絶することにもなりかねません。

イラッとしたらその場を離れる

こうした最悪のケースを避けるための最大のポイントは、「イラッとしたら、話をしない。その場から離れて、いなくなる」ことです。

諸富祥彦『プロカウンセラーの こころの声を聞く技術 聞いてもらう技術』(SB新書)
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「これはやりあってもいいことは起こらない」

こう思ったら、その場から離れて、いなくなるのです。最低2時間は距離をとります。2時間も経つと、お互い、冷静になってくるものです。どちらからともなく、「さっきはごめんね……」と話ができることが多くなります。

大切なのは、イライラ、カリカリしたまま、相手と話し続けないこと。この大原則を守ってください。

もしもこじれまくって、ものすごいののしりあいをしたあとであれば、最低2カ月は距離を置いたほうがいいと思います。それくらいしないと、親子関係の修復というのは難しいものだと肝に銘じておいてください。

諸富 祥彦(もろとみ・よしひこ)
明治大学文学部教授

1963年福岡県生まれ。教育学博士。臨床心理士。公認心理師。教育カウンセラー。「すべての子どもはこの世に生まれてきた意味がある」というメッセージをベースに、30年以上、さまざまな子育ての悩みを抱える親に、具体的な解決法をアドバイスしている。教育・心理関係の著書が100冊を超える。