※本稿は、諸富祥彦『プロカウンセラーの こころの声を聞く技術 聞いてもらう技術』(SB新書)の一部を再編集したものです。
「言い方」でねじれる親子関係
私のカウンセラーとしての初仕事は、ある地域の児童相談所が振り出しでした。その後はもう40年近くカウンセラーを行っており、多くの親御さんの相談を受けてきました。そんな経験から、思うことがあります。
カウンセリングに来られる親御さんの多くは、お子さんのことを思っています。お子さんのことを大切に思う「愛情」「気持ち」はあるのです。
しかし、「言い方」がわからない方が多い。そのために親子関係がねじれてしまうことが多いのです。
いくつかケースを紹介しながら、考えていきたいと思います。
子「今度の担任の先生、いやだなあ」
父「なんでいやなんだ? 困ったことがあるなら、なんでも言ってみなさい」
子「だって、宿題が多いし、よく怒るから」
父「なんだ、そんなことぐらい。それはお前のわがままだろう。もっと頑張んなきゃ!」
ケース2
子「今日は学校に行きたくないなあ」
母「なんで行きたくないの? お母さんにはなんでも話していいのよ」
子「○○くんとケンカしちゃってさ。仲直りできるかな……」
母「そんなことぐらい。自分で考えなさい!」
「なんでも話していい」と言ったのに…
「なんでも話していいのよ」
親のこの言葉を信じて、子どもが自分の気持ちを素直に言葉にして話すと、即座に「それはお前のわがままだ!」「もっと頑張んなきゃ!」「自分で考えなさい!」などと否定されてしまう。これでは、子どもはどうしたらいいかわからなくなってしまいます。親の言葉を信じてもろくなことはない、と不信感が募って、こころを閉ざしてしまいます。
「お前のわがままだろう」(=あなたが悪い!)
矛盾したメッセージを親から同時に送られ続けると、子どものこころは混乱してしまいます。こうした「矛盾したメッセージ」の中にいつも置かれると、「ダブルバインド」と呼ばれる状態に陥り、精神の病を発症してしまうことにもつながりかねません。