「住居」と「お金」をどうするか

こうしてA子さん夫妻は離婚できました。

この事例には、高齢者の離婚、いわば「老年離婚」のさまざまな問題が表れています。

まず一番大きな問題は、住む家がないという点です。賃貸物件を探すのが困難であることは、働いていない女性が離婚する場合にはどの年代でも付きまとう問題ですが、70代になると、職業の有無にかかわらず、誰でも賃貸契約が難しくなります。

物件を購入する資金がない場合、この事例に出てきたような単身の高齢者向けアパートに入ることになりますが、その場合は家族(主に子ども)の協力が必須になります。

また、お金の問題もあります。若い夫婦であれば、財産を分けた上で、子どもがいれば養育費の支払いがあります。離婚しても、どちらも働けるので、日々の収入を得ることができます。熟年離婚の場合は、年金を分割して、年金とパート代で何とか日々の生活を賄うことができます。

しかし老年離婚の場合は、アルバイトやパートが難しい年齢になっているため、分割した年金だけで暮らし、預貯金を取り崩しながら生活することになります。そのため、離婚したいと思っても経済的なハードルのために、身動きが取れないということも少なくありません。

電卓とお金
写真=iStock.com/sunabesyou
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子どもたちの協力は必須

私が老年離婚の相談を受けた場合、まず確認するのは、家族の助けを得られるかということです。金銭面だけでなく、同居が可能かといった面を確かめます。

夫婦のどちらかを子どもが引き取ることができれば、離婚はかなりスムーズに進みます。離婚するためには、子どもたちの協力は必須です。

「もう少しの我慢」ではなく「もうこれ以上一緒にいられない」

これだけ問題点を挙げると、「なぜ体力も気力も衰える年齢になってわざわざ離婚するのか」と疑問に思うかもしれません。第三者からすると、「残りの人生を我慢して添い遂げればいいのではないか」と考えますが、当事者にとっては深刻です。

年を取ってさらに気性が荒くなり、配偶者に手を上げる人もいます。また、病気で体が不自由になっているのに助けてくれないどころか、嫌みを言われて心身ともに限界に追い込まれてしまうこともあります。

「ここまで夫婦でやってきたのだからもう少し我慢すればいい」という気持ちではなく、「もうこれ以上は一緒にいられない」と追い詰められて相談にいらっしゃる方が多いです。

体力や気力が衰えてきたからこそ、お互いの感情に歯止めがかからなくなり、話し合いで改善することも難しくなり、夫婦の不仲にこれ以上耐えられなくなってしまうのだと思います。