「離婚してもいいが住む家がない」

依頼を受けた私は、夫に連絡をして、離婚の協議をしたいと申し入れました。

夫は弁護士を立てず、メールやFAXもできないということで、書面を郵送する形でやりとりをしました。

夫は毛筆で書いた手紙を送ってきます。最初は「離婚する理由がない」と書いていたものの、何度かやりとりをすると、「離婚してもいいが住む家がない」という手紙が来ました。

実は離婚の連絡を受けた後に、夫の方でも賃貸物件を探してみたものの、73歳という高齢が理由でなかなか見つからない、実家は仲の悪い兄弟が住んでいるため帰れない……という話が具体的に書いてありました。

夫のために物件探し

私はA子さんと相談して、夫の物件探しに協力することにしました。物件さえ見つかれば離婚に向けて動き始めると考えたからです。

夫が職場に通いやすい範囲で単身の高齢者用アパートを探したところ、保証人を立てる他に、緊急連絡先として家族の連絡先を登録すること、家族が所定の見守りサービスに加入することなどを条件に、契約が可能なところが見つかりました。

A子さんは「離婚するなら家族ではなくなるので、登録はしたくない」とおっしゃいました。結局、これも長女が対応してくれるということになり、ようやく夫の住む家の問題は解決しました。

アパートが見つかったことを伝えたところ、夫はそこに入居すると言いました。そこからようやく、本格的な離婚の条件の話し合いが始まりました。

A子さんは実家を守ることを重視していたので、夫側に引っ越しに関わる費用として多めに財産を渡すことを提案し、財産分与や年金分割についての話し合いを経て、協議離婚が成立しました。

夫は引っ越しをして、A子さんは家に戻りました。A子さんはパートを始めつつ、カルチャースクールに通うなど、一人で地道に生活をしています。

A子さんに会う時に長女とも何度か顔を合わせたのですが、長女は父親(A子さんの夫)のことも心配していました。当初は携帯電話も持っていなかったので、長女が、高齢者向けのスマホを契約して持たせ、頻繁に連絡を取るようにしたそうです。夫はこれを機に、疎遠だった実家とのやりとりも始めたということでした。