ここ10年の法務相で最も印象的

2020年3月、再改正のための検討会設置が決まった際の法務大臣は森まさこ氏だった。

そして2014年から、再改正刑法が成立した2023年までに3回法務大臣を務めたのが上川氏だ。在任期間は松島氏の辞任後の2014年12月〜2015年10月、110年ぶりの大幅な改正直後の2017年8月〜2018年10月、そして森まさこ氏の後の2020年9月〜2021年10月。

麻生太郎副総裁の「カミムラヨウコ」「そんなに美しい人とは言わないが」「このおばさんやるねぇ」「女性が外務大臣になった例は過去にないと思う」などの失言は、実は故意であり、岸田首相への当てつけだと一部では言われたりしている。次期首相、初の女性首相の声がなくもない上川氏の名前を出して強調することで(さらには炎上させることで)、一般的な知名度の低い上川氏を世の中に記憶させ、岸田首相にプレッシャーをかける、ということらしい。

個人的には単にいつもの失言癖だとしか思えないのだが、上川現外務大臣の世間の認知度が低いのは否めない事実だ。一般的には、2018年のオウム真理教幹部らのいっせい処刑により、法務大臣としてこれまでで最多の執行数となった件で知られているのかもしれない。

だが、性暴力を取材する筆者としては、ここ10年で法務大臣を務めた中で最も印象的な人だった。

慎重で感情をほとんど表に出さないが被害者視点を尊重

法務大臣だった頃の上川氏の性犯罪刑法改正に関する思いはForbes JAPANの記事で読むことができる。(上川法務大臣がすべてに答えた。「性犯罪」が直面する本当の問題点 Forbes JAPAN 2020年12月24日)

2004年に犯罪被害者等基本法の制定に関わったことで「犯罪被害者の権利」を意識した上川氏の経緯は、犯罪被害者を取材する中でその声を知った元朝日新聞記者である松島氏とも重なる。司法の中で置き去りにされていた被害者の権利が確立されたのは、この20年ほどのことであると思い起こせば、この先に#MeTooや性犯罪刑法の改正があったことをより理解しやすい。

Forbes JAPAN記事での上川氏の語りは、法務大臣の立場でかなり慎重に議論の経過を見守るスタンスでありながらも、当時13歳だった性交同意年齢について「いずれにしても13歳というのは、私が母親であった実感としても非常に小さな子どもだと思います」とするあたりに思いがにじむ。

ロビイングなどで上川氏と面会した人たちは、かなり彼女を信頼していた。面会した人の話から私が受け取った限りの印象では、上川氏はいつでも非常に慎重で、言葉にするのは現在の状況と議論の方向性の最小限の説明。そして感情をほとんど表に出さない。けれど、刑法改正に対して被害者視点を十分に尊重していた。「男性議員からも一目置かれていたように見えた」と話す人もいた。

晴れの日の国会議事堂
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