脳は「作り話」をする

脳がどれほど身体から影響を受けるか、つい忘れがちです。しかも脳自身もそれを忘れてしまうようなのです……というか、いつものごとく脳は現実をすべてありのまま見せようとはしません。

アンデシュ・ハンセン『メンタル脳』(新潮新書)
アンデシュ・ハンセン『メンタル脳』(新潮新書)

体内で細菌による炎症がかすかに起きているとしましょう。病気だと感じるほどではなくても、脳はそのシグナルを受け取り、免疫系がわずかに活発になります。

脳はそこで感情の状態を「ちょっとだるい」としてまとめます。そしてまともそうな理由を探し始めます。その時には危険のシグナルがどこから来たのか忘れてしまっていて、気分が落ち込んでいる原因を身体の外に見つけようとします。例えば「この本はさっきまで面白かったのに複雑で退屈になってきた」(そうは思ってほしくないですが)というように。

しかし身体から「どこも問題ない」というシグナルが送られてくれば、「心地良い」というまとめをして、「読んでいてわくわくする良い本だ!」となるわけです(そう思ってもらえていますか?)。脳は良い気分にも理由を見つけたいのです。

まるで脳が常に「人生の物語」を自分に語って聞かせているようなものです。

うまく出来た物語では、1つの出来事がちゃんと次の出来事につながり、突拍子もないことが唐突に起きたりはしません。そう、私たちは脳から作り話を聞かせられながら生きているのです。そうでなければ人生が複雑になり過ぎてしまうからです。

人工知能のコンセプト
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです

運動・薬・セラピーの組み合わせ

運動は不安やうつといった感情の浮き沈みにうまく対応する力を与えてくれますが、薬が役に立たないわけではありません。最近の薬は優秀で、多くの人が感情面で良い生活を送れるようになっています。また、自分の感情を言葉にして語るセラピーもよく効きます。新しい考え方が出来るようになり、害になるような感情や思考パターンから解放されるようになるのです。

1番効果を得られるのは、症状に応じて運動・薬・セラピーを組み合わせることです。

生物学的に、つまり人間の身体の仕組みから言うと、薬と運動は「扁桃体を抑える」効果があり、セラピーは脳の最も高度な部分の1つである前頭葉の、「考え方で不安や心配に対処する」トレーニングになります。

つまり運動しか効果がないわけではありません。ただ、運動には素晴らしい効果がある上に手軽なことが忘れられがちなので、あえて強調しておきたいのです。

アンデシュ・ハンセン(Anders Hansen)
精神科医

ストックホルム商科大学で経営学修士(MBA)を取得後、ノーベル賞選定で知られる名門カロリンスカ医科大学に入学。現在は王家が名誉院長を務めるストックホルムのソフィアヘメット病院に勤務しながら執筆活動を行い、その傍ら有名テレビ番組でナビゲーターを務めるなど精力的にメディア活動を続ける。『運動脳』は人口1000万人のスウェーデンで67万部が売れ、『スマホ脳』はその後世界的ベストセラーに。