感謝日記をつける
私たちの研究では、これまでの発見に基づきながら、新しい実験を行ないました。
それは「参加者の幸福度を測ってから、感謝に対する介入(意図的な働きかけ)を行ない、それが終わったらすぐにもう一度、幸福度を測る」というものです。
まず、参加者は、「感謝日記」をつけるように指示されます。「ありがたい」と思ったことを5つ書きだし、それについてじっくりと考えるというものです。具体的には、次のような指示がだされました。
「私たちの人生には、大小の差はあっても、感謝すべきものがたくさんあります。過去1週間の出来事を振り返って、あなたが感謝したり、ありがたいと思ったりしたものを5つまで、以下の線のところに書いてください」そして「今週、私が感謝しているのは……」という言葉に続いて、何も書かれていない線が5本並んでいます。
参加者は6週間にわたって、幸福度が高まるためのこの方法に取り組みました。参加者の半分はこの行動を週に1回(毎週日曜の夜)とるように指示され、残りの半分は週に3回(毎週火曜、木曜、日曜)とるように指示されました。その結果、参加者が記録した、感謝を感じた対象はじつに多岐にわたっていました。「母親」「健康な身体」「バレンタインがあること」から「中間試験で3章分しか出題されなかったこと」というものまでさまざまです。
週1回のグループにしか効果は得られなかった理由
予想通り、私たちの提案したこのシンプルな方法は、感謝の気持ちをより多く生みだすことに効果があるとわかりました。さらに、自らが受けた恵みを定期的に数えた参加者は、より幸福になったという重要な結果がでたのです。対照グループ(つまり、どんな行動もとらなかった人々)に比べて、感謝を表現したグループは、介入があったあとの幸福度がかなり高くなったことが報告されています。興味深いことに、この効果がでたのは、毎週日曜の夜に感謝すべきことを書きだした参加者だけでした。週に3回、書きだした参加者は何の効果も得られなかったのです。
一見すると、この発見は奇妙に見えるかもしれません。しかし、ちゃんと説明がつきます。毎週火曜と木曜と日曜に感謝を表現することになっている人たちは、それが面倒な作業だと思って、しだいに退屈になっていったのでしょう。一方、週に一度だけ感謝を表現する人々は、長い間にわたって、それを新鮮で意味のある行動だと思い続けたのです
米国カリフォルニア大学リバーサイド校の心理学教授。社会心理学とポジティブ心理学のコースで教鞭をとっている。ロシア生まれ。ハーバード大学で学士号を取り、スタンフォード大学で博士号を取得した。2002年度のテンプルトン・ポジティブ心理学賞などさまざまな賞を受賞している。また、現在は『ポジティブ心理学ジャーナル』の編集に携わり、米国国立精神衛生研究所から数年にわたって助成金を受けて、「永遠に続く幸福の可能性」について研究を続けている。テレビやラジオの番組にも多く出演し、多数の講演も行なっている。家族とともにカリフォルニア州のサンタモニカに在住。