画廊で作家につきまとうギャラリーストーカー

その前に、ギャラリーストーカーとはなんなのでしょうか。

近年、被害者の声が高まり社会的にも注目されるようになった「ギャラリーストーカー」。

その実態が書かれたルポ『ギャラリーストーカー 美術業界を蝕む女性差別と性被害』(猪谷千香・著/中央公論新社)によると、ギャラリーストーカーとは「画廊で作家につきまとう人たち」を指します。

「彼らの多くが中高年男性であり、ターゲットにされるのは美術大学を卒業したばかりの若い女性作家である。ギャラリーストーカーは画廊に居座り、キャバクラに来たかのようにふるまい、女性作家たちに長時間の接客を求める。あるいは、作品を購入したのだからといって、男女関係を求めてくる。SNSでも作家の投稿にしつこく返事をしたり、長文のDMやメールを一方的に送りつけたりしてくる。しかし彼らは客であり、コレクターであることから、売り出そうとしている駆け出しの若い女性作家は強く拒絶できない」とあります。

「ギャラリーストーカー」という名称がつけられたのはここ10年以内のことですが、昔からこういった迷惑な人はいました。

美術に関して無知なのに若い女の子としゃべるためにギャラリーにやってくるおじさん、作った本人に向かって「この作者はこう思っている」と解説を始めるおじさん(こっちが赤面)、初対面なのにまるで旧知の先輩かのような言動をするおじさん。

一方、本格的な美術品のコレクターおじさんが言葉巧みに女性作家を言いくるめて2人きりになる状況をつくり、性的行為を強要してきて危険な目に遭った、という話も作家本人から聞いたことがあります。

若い女性作家やその作品に対してリスペクトがなく「僕をリスペクトしなさい」という態度をとる。その場にそぐわない欲望を一方的に満たそうとする行為は、美術だけでなくどんな状況であっても迷惑で、相手や周囲に無駄な恐怖を与えます。

これから自分の作品を世の中に知ってもらって生計を立てようとしている若者にとっては、邪魔でしかない。だけどギャラリーストーカー本人は迷惑行為をしている自覚がないので、「やめてほしい」という意思表示が伝わらないということがこのギャラリーストーカー問題を複雑化させている要因の一つと言えるでしょう。

ポスターの「絶対許さない」という意思表示

武蔵美のギャラリーストーカー対策ポスターを見て、こんなにしっかり本格的に「絶対に許さない」という意思表示をしてくれて、さらにギャラリーストーカーを見つけた際の対処法も具体的に書いてくれているのが非常に心強い! と思いました。

被害者側への「気をつけろ」という注意喚起だけに留まらず、「何かあったら私たちが助けます」という姿勢を示しているところが一歩先を行っています。