画廊などで若い女性作家につきまとう「ギャラリーストーカー」が問題化している。加害者たちは、なぜこうした行為をしてしまうのか。漫画家の田房永子さんは「昨年、母校の武蔵野美術大学の芸術祭を訪れた際、女子学生にギャラリーストーカー行為をする男性を目撃してスタッフに通報した。こうした行為をする人たちは、自分自身の尊厳を大切にすることを放棄し、弱い者の尊厳を盗まないではいられなくなっているのではないか」という――。
手のひらを突きだし、拒否する女性
写真=iStock.com/asiandelight
※写真はイメージです

子どもにも母校の芸術祭を見せたい

去年の10月の終わり、武蔵野美術大学の芸術祭(学園祭)に行きました。

武蔵野美術大学(以下、武蔵美/ムサビ)は私の母校。

昔からムサビの芸術祭は模擬店の建築からパレード、ファッションショーのステージに至るまで、何もかも、学生たちが作っているとは思えないほどのハイクオリティでした。高校生の私は芸術祭に大感激して「この学校に入りたい!」と胸をときめかせたものです。

そして実際に学生になった時は、サークルの友人たちと模擬店をやったり、パレードについていって踊ったり、別の学部の作品を見て回って刺激を受けたり、存分に芸術祭を楽しみました。

それで今回は、自分の子どもと一緒に武蔵美の芸術祭を楽しみたい、と思ったのです。

卒業して以来、芸術祭に行くのは初めてでした。コロナ禍だった2022年は予約制だったようですが、2023年の入場は事前登録制。3日間の開催日の中から行く日を選んで登録しました。入場料は無料です。

「ギャラリーストーカー対策委員会」からのお願い

その後、X(旧Twitter)を見ていると「武蔵野美術大学 芸術祭 ギャラリーストーカー・不審者対策に関する注意とお願い」という画像が目に留まりました。

近年 武蔵野美術大学では以下の様な被害が増えています。

・学生に対して展示や作品と関係のない話を長時間にわたって一方的に話しかける
・学生からプライベートや連絡先等を無理に聞き出す
・学生への執拗しつようなつきまとい
・学生への卑猥な言動
・学生への盗撮や写真撮影の強要

万が一怪しい人を見かけたり
緊急性の高い事案が発生した際は
オレンジ色のユニフォーム着用の
執行部警備部までお声掛けください」

オレンジ地に黄色の太字のポスター、「ギャラリーストーカーを許さない」という強い意志が伝わってきます。

署名は『ギャラリーストーカー対策委員会 武蔵野美術大学芸術祭実行委員会執行部』となっています。

武蔵美がこんなに総力を挙げてギャラリーストーカー対策をしていることにかなり驚きました。私はこの時点では、「武蔵野美術大学」がこの委員会を作って学生を守る活動をしているんだと思い込んでいたのです。しかしそれは重大な思い違いであったことは後述します。