ネットの体験談や人の話は誇張が多い

また、ネット上の体験談が事実という証拠はどこにもありません。

知り合いに話す場合の体験談も同様で、不倫で慰謝料を払った側は、「嫁さんに全財産取られちゃってさ」など、金額を多めに言いがちで、少なめに言うことはありません。

本来、慰謝料の金額といった示談の条件は、秘匿性が高いものなので、正確な内容が表に出ることはありません。当事者が他人に話す内容は、誇張されたものであると考えた方がよいでしょう。

不倫をされた側は、財産分与が通常より多くもらえると勘違いしている人も多いのですが、財産分与はあくまで夫婦で築き上げた財産を離婚時に分けるというものなので、離婚原因によって分与額が変わることはありません。

これはおそらく、不倫を悪いことと考えるあまり、「不倫した人は破滅してほしい」という願望が独り歩きして生まれた都市伝説のようなものなのだと思います。

そこから、「不倫をされたら慰謝料で安泰」と考える人が多くなってしまったのではないでしょうか。いわば「慰謝料神話」と言ってもよいでしょう。

私が危惧しているのは、こういった「慰謝料神話」に影響されて、慰謝料に夢を見てしまう人が後を絶たないことです。

ごく普通のサラリーマンの家庭なのに、「不倫した夫から1億円もらいたい」と本気で言う人もいます。収入も貯金もなく、相手の両親もごく普通の家なのだから1億円なんてもらえませんよと周りから言われても、「でも不倫されたのでそのぐらいは当然にもらえるはず……」と聞き入れません。

「不倫をしたんだから、相手には一生私の面倒を見る義務がある」と思う人が多いのですが、法律上そういった義務はありません。まして、不倫をした時点で心が離れているので、その相手に一生奉仕して償おうと考える人はいません。

不倫をした「有責配偶者」からは離婚できない

とはいえ、慰謝料の金額が低いからといって、不倫をした人が得をするということはありません。

不倫をした人は有責配偶者となり、自分から離婚することができなくなります。未成年の子どもがいる場合は成人するまで、別居をしている場合でも、一定程度の別居期間の継続がなければ、裁判で離婚を求めても認められません。

多額の慰謝料と比べると、大したことではないように見えるかもしれませんが、これは実はとても大きなペナルティーです。

まず、離婚して不倫相手と結婚したくてもできなくなります。

また、別居している間は双方の収入に応じて婚姻費用を支払う必要があります。離婚するまでの間支払い義務が生じるので、別居期間によっては、数百万円の慰謝料よりも大きな金額になります。