そして、相手を有責配偶者と裁判で認定してもらうために重要になるのが、不倫の証拠です。そのため、不倫の証拠は多額の慰謝料をもらうためのものというより、離婚されないためのものと考えた方がよいでしょう。ゲーム的な言い方をすると、不倫の証拠は、“武器”としてよりも、“防具”としての効果の方が高いのです。

不倫の後にある「人生と心の立て直し」

不倫が配偶者からの裏切り行為であるのは確かです。しかし現実としては、多額のお金をもらってすっきりということはなく、不倫をした配偶者とどう向き合うか、自分の人生をどうしていくかという大きな問題に直面することになります。

まず考えるべきは、自分が配偶者の不倫を許せるか・許せないか、ということです。許すのであれば、夫婦関係の再構築を模索します。

許せないのであれば、別居や離婚を検討します。子どもへの影響も考える必要があるでしょう。住む場所はどうするか、仕事は、子どもの学校は……。

不倫をされた後にあるのは、このように地道な「人生と心の立て直し」です。相手の出方によってはさらに傷つく場面もありますし、金銭的に苦しくなることもあります。

それでも、自分と子どもの心や将来を守るために何が最善なのかを考えなければいけませんし、そのためのお手伝いをするのが弁護士という職業だと私は考えています。

こういった道のりになることを説明すると、すんなり理解できる方もいます。しかし、それでもなお「それはおかしい、慰謝料がたくさんもらえるはず」と信じて疑わず、配偶者や不倫相手にやみくもに金銭を請求し続ける人もいます。

「相手から離れたい」か、「懲らしめ」か

離婚にはさまざまな原因があり、不倫はあくまでその一つです。

不倫以外の原因、例えば暴言や暴力、金銭問題で離婚をしたい人は「相手と離れたい」という気持ちが強いので、「高額な慰謝料が欲しい」「謝罪を受けた」「ギャフンと言わせたい」とは言いません。なぜなら、相手と離れて精神的に楽になることが最優先になるからです。

一方、不倫については、「すぐに離れる」という選択肢をとる人は少ないです。離れるよりも、金銭を多く取りたい、謝罪させたい、ギャフンと言わせたいといった、「懲らしめ」を重視します。このように、反応に違いがみられるのは、やはり背景に「慰謝料神話」があるからではないかと思います。

不倫をされた時に、お金のことばかり考えてしまうと、大事なことを見過ごしてしまいます。不倫は良くないことですが、不倫をされたからといってお金が増えるわけではないというのはシビアな事実です。

まずは弁護士に相談して、自分たちのケースではどういった選択肢が考えられるのか、現実的かつ具体的な方法を探ることをおすすめします。

堀井 亜生(ほりい・あおい)
弁護士

北海道札幌市出身、中央大学法学部卒。堀井亜生法律事務所代表。第一東京弁護士会所属。離婚問題に特に詳しく、取り扱った離婚事例は2000件超。豊富な経験と事例分析をもとに多くの案件を解決へ導いており、男女問わず全国からの依頼を受けている。また、相続問題、医療問題にも詳しい。「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)をはじめ、テレビやラジオへの出演も多数。執筆活動も精力的に行っており、著書に『ブラック彼氏』(毎日新聞出版)、『モラハラ夫と食洗機 弁護士が教える15の離婚事例と戦い方』(小学館)など。