女性の頑張りと女性ファンの支持の上に成立する男性のビジネス

今年9月末、宝塚歌劇団員女性の自死が明るみに出、その理由が上級生によるいじめであったとの遺族の主張が伝えられ、宝塚における伝統的な過重労働とパワハラ体質が問題視されている。これは伝統という名の下に温存されてきた構造問題であり、改善が必要であると指摘され続けた結果、ついに阪急阪神HD会長の角和夫氏が宝塚音楽学校の理事長を12月1日付で辞任。今後は組織風土改革が着手されるとみられている。

よくよく考えれば、宝塚とは女性の世界ならではの精密で完璧で自己犠牲的な努力主義に基づくパフォーマンスと、全国の女性ファンの熱狂的な支持に支えられた、男性が意思決定するビジネスなのである。キリキリ頑張るのは女、意思決定は男というねじれた全体構造は、決して清くも正しくも美しくもないように感じるのだが。

出血は一向に止まらない

2023年を振り返るだけでも、男性アイドル、歌舞伎、高校野球、宝塚、大学体育会など、今の時代に取り残された、伝統的な精神論をエンジンに回るジャンルは次々と制度疲労を起こし、それぞれに大きくまたは小さく壊れていった。昨年は吉野家のマーケティング責任者による「生娘をシャブ漬け」発言などもあったが、これまで許されてきた行為やもの言い、「わかっていても黙っているのが大人」とされたことや分野にメスが入っている。

これまでも、何かにメスが入ると出血するものはあったが、最近はその出血が一向に止まらず、2020年代は、組織自体が動きを止めてしまうほどの大きな事態へ至るのが特徴だ。

出血など、そんなものはすぐに絆創膏でも当てれば止まったものだったのに、2020年の古い組織に出血を止める力はもうない、ということに気がつくのだ。それは組織の老化であり、制度疲労である。私たちはビジネスの組織論や、工場システムの話ならすぐ気がつくのに、自分たちが日常を送る「社会」の制度疲労に関しては、その姿が当たり前だと思ってすっかり見逃している。

「河崎さん、次は何が堕とされるのでしょうね?」

最近、アンテナの高い編集者の皆さんにはそういう聞き方をされる。当たり前が当たり前じゃなくなる、それだけ2023年は大変化が起こった年だった。さて来年は、私たちが「そういうものだ」と信じきっているものの中から、何が壊れるのだろう。

そうそう、失敗する自分に「死んだ方がいいな」と口走る長年の癖に悩まされてきた私だが、親にそんなことを言われて育ったわけでもないのに……とずっと内省し、残酷な言葉を自分に向ける自己否定の根が「そうか、あの中学受験の日々にあったのだ」と気がついたのは、だいぶ大人になってからだった。

今では「死んだ方がいいな」とうっかり口走ったあと、「いやそれほどのことでもないって」と自分で言い返せるようになった。それなりに無駄に長く生きたので、おばさんの賢者力がついたのである。

頑張り屋の完璧主義女子たちよ、自分で自分を許すと、生き易くなるよ。

河崎 環(かわさき・たまき)
コラムニスト

1973年、京都府生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。時事、カルチャー、政治経済、子育て・教育など多くの分野で執筆中。著書に『オタク中年女子のすすめ』『女子の生き様は顔に出る』ほか。