食品や日用品を自宅まで届けてくれるネットスーパーの市場が拡大している。その中で、今年フルリニューアルによってユーザーからの評価を大きく高めたのが「東急ストアネットスーパー」とそれに併設する「東急ストアオンラインショップ」だ。商品の“探しやすさ”や“買いやすさ”にこだわり、店舗スタッフの業務の効率化も実現した今回のリニューアルはどのように行われたのか。東急株式会社と共に「東急ストアネットスーパー」の運営を担う株式会社東急ストアの大堀左千夫社長とリニューアルサイトの設計、構築を担った株式会社ecbeingの林雅也社長が語り合った。

使い勝手のわずかな差がサービスを選ぶ決め手に

【林】東急ストアさんは東急線沿線を中心に約90店舗のスーパーマーケットを展開され、現在そのうちの37店舗がネット注文に対応しています。ネットスーパーの存在感は高まっていますか。

【大堀】コロナ禍に利用者が一気に増え、2020年には「東急ストアネットスーパー」の売上高が前年比約30%増となりました。その後も利用者数は着実に伸びており、今や当たり前の買い物ツールになっていると感じます。帰宅時間に合わせて電車の中から注文したり、雨の日や重い商品を買う際に使ったり。皆さん賢く活用されています。

【林】食品、日用品の市場は非常に大きく、今後のEC業界を引っ張っていく分野として注目されています。商品管理や配送システムを含め、まだまだ改良されていくに違いありません。

【大堀】そう思います。一方で、オンライン上に出店できるネットスーパーはリアル店舗と比べて参入障壁が低く、競争が激しい分野でもある。使い勝手や利便性などのわずかな差が、お客さまがサービスを選ぶ決め手になります。一度使ってみて「自分には合わない」と思えば、すぐ他社に乗り換えられてしまいます。その意味で今回のリニューアルは大事な取り組みでした。

【林】ECをはじめとするEビジネスの世界では日々新たな技術や仕組みが開発され、それを使った効果的な商品の見せ方や快適な購入フローが次々と登場しています。5年前にはベストな形でもいつの間にか使いにくいものになってしまいますから、まず変化に柔軟に対応できる基盤をつくる。その上で、ユーザー視点のUI、UXを適宜実現していくことが求められます。

ecbeingのEC構築プラットフォームを活用してフルリニューアルした「東急ストアネットスーパー」

使用感と操作性を向上させ、大量の商品を購入する場合でもストレスなく手軽に買い物ができることを目指した「東急ストアネットスーパー」。カート内の商品を簡単に確認でき、数量の変更なども容易だ。厳選された各種ギフトなどを扱う「東急ストアオンラインショップ」ともシームレスにつながっている。

ピッキングや在庫管理の生産性が大きく向上

【大堀】おかげさまで、「東急ストアネットスーパー」の再構築は大成功でした。例えばカートに入れた商品は、わずか2クリックで注文が完了する。これまでは倍くらいの手間がかかっていました。細かなことのようですが、これが顧客体験を大幅に改善します。実際、リニューアル後のお客さまアンケートでは、ほとんどの方から「使い勝手が良くなった」との回答を頂きました。

【林】欠品時の対応も、東急さん、東急ストアさんと打ち合わせを重ね、改善を図りました。従来は、配送時に在庫がない商品が一つでもあった場合、「代替商品を希望する」を指定されたお客さまにお店から電話連絡して、欠品の状況を説明したり、代わりの商品を提案したりされていました。

【大堀】それが現在は、“商品ごと”に代替商品を希望するかどうか設定できるので、お客さまの希望にきめ細かく応えられます。同時に店舗スタッフによる電話連絡もずいぶん効率化され、生産性が向上しました。

【林】お客さまの利便性向上と従業員体験や生産性の向上を両立することはとても重要で、私たちはECサイト構築に当たって重視しています。現場に負担がかかると、結局それがサービス品質に影響しますから。

【大堀】その点では、注文品を店舗でピッキングするときに使うシステムも非常に分かりやすくなりました。現在、各店にピッキング専任のスタッフはいないため、誰もが簡単に使えるシステムは助かっています。また、データ連携によって便ごとの出荷見込みを含めた受注商品数などが集約され、いつでもタブレットでその状況を確認できるため、業務がかなり効率化されました。

【林】ネットスーパーのシステムは在庫や販売価格を店舗ごとに管理する必要があるなど、UI、UXだけでなく裏側も非常に複雑です。その部分は、これまで当社が1600を超えるECサイトを構築する中で培ってきた経験値に基づき、早めにすり合わせを行い、最適な形を提案させていただきました。ただ、そうした仕組みを使いこなせるかどうかは、「人」の部分も大きい。東急さん、東急ストアさんは、一部の人だけでなく、全社でECと向き合っているのが素晴らしいと感じます。

左/大堀左千夫(おおほり・さちお)
株式会社東急ストア
代表取締役社長
1985年東急ストア入社。横浜地下街店店長、商品本部日配食品部長、MD推進室長、店舗戦略室長、営業本部長、専務執行役員などを歴任。2022年より現職。
右/林 雅也(はやし・まさや)
株式会社ecbeing
代表取締役社長
1997年にインターネット通販をスタート。そのノウハウを生かしてECサイト構築パッケージを開発し、提供する。日本オムニチャネル協会専務理事。

より暮らしに根差したネットスーパーを目指す

【大堀】今後は、リアル店舗とネットスーパーのお客さまデータの連携などがテーマです。ほとんどの方は両方を併用されていますから、データ連携することでより精緻なマーケティングが可能になり、これまで以上にお客さまに役に立つ情報を適切に提供できるようになります。

【林】買い物履歴を基にお薦めの品や買い忘れのアナウンスもできそうです。また、リアル店舗ではその日の産地直送品や特売品の情報が掲示されています。ネット上ならそうした情報も各売り場のご担当がきめ細かく、ベストなタイミングで発信が可能。それが販売につながれば、スタッフの方たちのやりがいにもつながるように思います。

【大堀】いいですね。そうした取り組みを通じて、ネットスーパーをよりお客さまの暮らしに根差した存在にしていきたい。高齢者の買い物難民化などは都市部でもすでに一部問題になっています。デジタルの力を使って、社会課題の解決にも貢献していければと考えています。

【林】重要なお話です。ぜひ私たちもECのプロとして、共に役割を果たしていければと思います。

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