「マイルで生活ができる世界」をコンセプトに、航空や旅行などの「非日常」領域にとどまらず、「日常生活」領域においても商品、サービスを提供する。ANAグループの中でそうした役割を担うのがANA Xだ。同社は今年1月、「ANA Mall」をオープン。ANAオリジナルグッズの他、多彩な加盟店の商品が好評で、確かな実績を重ねている。航空非連動の収益ドメイン拡大の一翼を担うこのモールでは、顧客の心をつかむべく、何を重視し、どんな取り組みを行っているのか。ANA Xの轟木一博社長と「ANA Mall」の構築、運営を支えるecbeingの林雅也社長が語り合った。

成功のキーワードは「ブランドプロミス」

【林】「ANA Mall」のコンセプトは、“旅と日常がつながるECモール”とのこと。ANAのマイルが貯まる・使えるということで、独自の強みを生かした特徴的なモールになっています。

【轟木】現在、ANAマイレージクラブ会員は約4000万人に上ります。ANAのマイルの価値や利便性を高め、より暮らしに根差したものにすることがモール立ち上げの狙いです。そうすることで会員満足度を向上させ、航空事業と連動しない新たなビジネスの柱を確立したいと考えています。

【林】顧客接点を増やし、多様な価値を提供できるECは、カスタマーロイヤリティを高めて、“ファン化”を促進する有効な手段です。特に、「ANA Mall」の場合、マイルを通じて旅行など非日常の世界ともつながっているのが魅力的。また、ANA単独のECサイトとせず、多様な加盟店が集まるモールとしたのもポイントですね。

【轟木】お客さまの視点に立ったとき、自前主義にこだわる必要はないと判断しました。多くの企業とパートナーシップを組めば、スピーディーに品ぞろえを充実させられるし、いろいろなキャンペーンも打てる。出店ショップ数は、開店時に23だったのが現在は40以上。年度内に100を目指しています。

【林】取り扱う商品をはじめ、モール運営で大事にしていることはありますか。

【轟木】ANAグループの経営ビジョンは「ワクワクで満たされる世界を」です。そこで「ANA Mall」でも、お客さまに感動や驚きを届けることを大切にしています。また私たちは、社会課題の解決にも力を注いでいますから、例えば地域の特産品やフェアトレード商品なども取り扱い、「買い物でも社会貢献したい」というニーズに応えられるようにしています。

【林】とても重要な取り組みです。というのも、ECやデジタルサービスなどのEビジネスを成功させるキーワードの一つは「ブランドプロミス」。大切にしている理念や想いが明確で、一貫しているサービスに顧客は信頼感や愛着を覚えます。しっかりとした価値観を持っていることはリピーターを獲得する要素になるわけです。

ecbeingが提供するECサイト構築プラットフォームを活用した「ANA Mall」

1マイル1円相当で使え、買い物に応じてマイルを貯めることもできる「ANA Mall」。ANA関連グッズ、トラベルグッズの他、ギフト、日用品、家具、家電など、多種多様な商品を取りそろえる。ユーザーへワクワク感を提供するさまざまな特集・キャンペーンも魅力だ。トップページでは最新の人気商品も一目で確認できる。

最新の技術を取り入れながらPDCAを高速で回す

【轟木】今回のプロジェクトは、コロナ禍で航空事業が打撃を受ける中で進行したこともあり、スピード感が求められました。そこで頼りになったのが、ecbeingさんの経験や実績です。

【林】ありがとうございます。当社の特徴はECサイトを構築するプラットフォームを有し、それをカスタマイズして提供できることです。そうして迅速性と柔軟性を両立しています。今回はモールの根幹となるANAマイレージクラブ会員のシステム、各加盟店のシステムとの連携に細心の注意を払いました。

【轟木】確実な仕事ぶりで大変助かりました。オープン後も、多様な商品をどう見せるか、また加盟店との情報のやりとりをどう効率化するかなど、モールのクオリティーを上げるための工夫を一緒に考えてもらっています。

【林】ECは立ち上げてからが勝負ですからね。私たちは、例えばECに動画やSNSを組み込むなどさまざまな仕組みをすでに持っているため、それらをゼロから開発する必要はありません。また、約200人からなるマーケティング支援部隊も有しているので、今後は顧客の行動分析やそれに基づく施策もお手伝いしていきたい。ちょっとした工夫が大きな成果につながりますから。

【轟木】デジタルの世界は進化のスピードが速いため、最新の技術やノウハウをしっかり取り込んでいかなければ、競争には勝てません。ANA Xは航空会社のグループ会社に違いありませんが、一方でIT企業でもあるという意識を強く持っています。ANAのブランドを大切にしながら、同時にPDCAを高速で回して、動きながら課題を解決していくことが必須となる。そうしたとき、専門的な知見を持つ外部パートナーの存在は心強く感じます。

左/轟木一博(とどろき・かずひろ)
ANA X株式会社
代表取締役社長
1998年に運輸省(現国土交通省)入省。航空政策などに携わる。株式会社経営共創基盤、Peach Aviation株式会社などを経て、2021年にANA Xに入社。22年より現職。
右/林 雅也(はやし・まさや)
株式会社ecbeing
代表取締役社長
1997年にインターネット通販をスタート。そのノウハウを生かしてECサイト構築パッケージを開発し、提供する。日本オムニチャネル協会専務理事。

「失敗こそが挑戦の証し」との気持ちでさらなる進化を

【林】すでにANA Xさんはアプリビジネスや決済サービスも手掛けるなど、まさにIT企業として広がりのあるビジネスを展開されています。加えて、「ANA Mall」も含めた個々のサービスを独立したものでなく、相互に連携させているところに可能性を感じます。最後に、今後の抱負を聞かせてください。

【轟木】非日常と日常、リアルとデジタルの垣根をなくし、マイルを通じてお客さまの体験価値を高めていくことが私たちの役割です。各サービスを一体のものと捉えているのも、お客さま視点が基本にあるからに他なりません。これからも、当社のミッションである「私たちは、人や社会に寄り添い、お客様の日々を豊かに彩り続けます。」を実現するため、“失敗を恐れない”というレベルを超えて“どんどん失敗をしよう。それこそが挑戦の証しである”という気持ちで、お客さまがワクワクするサービスを生み出していきたいと思います。

【林】「ANA Mall」の進化を後押しする企業の一つとして今後の展開が本当に楽しみです。本日はありがとうございました。

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