タマネギはなぜ水に浮くのか
やがて、子どもたちは、「土の上にできる野菜は浮かび、土の下にできる野菜は沈むようだ」という答えを自ら導き出すというプログラムだ。
瓜成さんには、F先生のプログラムの概要をあえて教えないで実験を続けてもらう。
私は、瓜成さんに聞いた。
「沈んでいったサツマイモは、植物の根の部分だよね。それじゃあ、地面の下にある茎は浮かぶかな?」
たとえば、ジャガイモは根ではなく、茎が太ってできている。地面の下にあれば、茎でも沈むだろうか?
「沈み……ますよね」
瓜成さんは、少し自信がなさそうだ。引っかけ問題かも知れないと、慎重になっているのがわかる。
試してみると、ジャガイモは沈んだ。
「それじゃあ、タマネギはどうだろう?」
「タマネギも沈むと思います」
「じゃあ、やってみるよ」
試してみると、タマネギは浮かぶ。
「そういえば、サラダを作るとき、水にさらすとタマネギは浮きますよね」
瓜成さんは、気づいたようだ。
下手な知識よりも、自分の経験の方が考えるヒントになることもある。
そういえば、カレーライスを作るときにジャガイモは沈むし、水で冷やしたバケツのスイカは浮かんでいる。
「でも、タマネギはどうして……?」
「もしかして、瓜成さんはタマネギが地面の下にできていると思ってない?」
私は言った。
「スマホで『タマネギ畑』を検索してごらん」
「あっ!」
瓜成さんが、短く声を発した。
そうなのだ。じつはタマネギは地面の上の地際にできる。一部は地面に埋まっているが、そのほとんどは地上にあるのだ。ちなみに、タマネギの食べる部分は、鱗茎と呼ばれるが、茎ではなく、実際には、鱗片葉という葉が肥大したものである。
農学部の学生も考えさせられるプログラム
じつは、このプログラム、野菜のことを専門で学んでいる農学部の学生にとっても、十分楽しめる、優れたものなのだ。
「野菜の浮き沈み」のプログラムのポイントは、誰でもわかる問いから始めるということである。
まずは、絶対に浮かびそうなピーマンから始める。そして、キャベツやカボチャなど、だんだんと意見が分かれるような野菜について質問していく。
子どもたちは「野菜を浮かべなさい」と指示をされることなく、次々に「野菜を浮かべたくなる」ように仕掛けられているのである。
やさしい問いから初めて、どんどん深い問いへと誘いざなっていくというF先生から教わった手法は、私は自分の授業でも取り入れている。
「じゃあ、ダイコンはどうなるんでしょう?」
瓜成さんが、聞いてきた。
ダイコンは、地面の下にできる野菜である。
しかし、じつは、ダイコンの上の方は地面の上にはみ出している。
そうだとすると、ダイコンの地面の上に出ている部分は浮かぶのだろうか? それとも沈むのだろうか?