「メンター」柿沢元法務副大臣の助言だった

YouTube有料広告掲出による公職選挙法違反へと、話を戻そう。

木村弥生元区長は、当初「有料広告は支援スタッフからの提案だった」と弁明していたが、10月31日に状況は一転する。「自分の助言であった」として柿沢未途議員が法務副大臣を辞任したのだ。

もともと区レベルの選挙戦を戦った経験があったわけではない木村氏である。区長選のノウハウや人材のリソースは柿沢氏の戦略指導に素直に従ったものであったことは想像に難くない。

11月下旬になって、木村・柿沢チームはさらに追い込まれる事態となった。木村氏の区長戦を陰で率いた柿沢氏から、自民党区議へ配られた「陣中見舞い金」の経緯を東京地検特捜部が捜査。柿沢氏は懸命に「買収の意図はない」と否定してきたが、秘書が「柿沢氏から10人以上の自民党区議へそれぞれ20万円程度の現金を配るよう指示があった」と説明していたことが明らかになったのである。現状では木村氏は区長を辞した一方で、柿沢氏は法務副大臣は辞職したものの、自民党の衆議院議員としては在籍中。いよいよ誰かが柿沢氏の息の根を止めにかかっているのかもしれない。

古今東西、政敵は敗北の感情をジクジクと発酵させ、刺して引きずり降ろす機会を虎視眈々たんたんと狙っている。そもそも話題にもなっていなかった――誰も見てなかった――14万円のYouTube広告掲出は、彼女の当選を覆し、木村・柿沢両氏を辞任に追い込むネタとして十分な役割を果たす、「痛恨のミス」だったのだ。

これはプロの選挙コンサルからすれば言語道断とも言えるレベルのミスだったという。「僕らは細心の注意を払って、絶対に公職選挙法に抵触しない形でPRを打ち、当選を請け負うわけですから」とは、ある政治系広告代理店代表の言葉だ。「選挙は、きちんとしたルールのあるゲームなんです。ルールがあるからこそ、資金力のない人も立候補できる。機会公平なプレーヤーとして誰もが守られ、公正な選挙ができるんです」との説明に、納得させられてしまった。

2023年4月統一地方選で女性首長6人を生んだ「東京の奇跡」の一角を担った、江東区長を辞任に追い込む公職選挙法という厳格なルール。これまでにも何人もの政治家が抵触を原因として職を辞し、キャリアを終えるほどの結末すら味わってきた。木村区長の辞職は個人的に残念な結果ではあったが、それがあるから選挙は「公正」で、だから政治は面白くもあるのだろう。