子どもをもつほど幸せではなくなる厳しい現実

整理すると、①第1子出産→②夫の子育て支援などが得られず夫婦関係が悪化→③女性の幸福度低下&第2子出産の抑制、といった流れがありそうです。

佐藤一磨『残酷すぎる幸せとお金の経済学』(プレジデント社)
佐藤一磨『残酷すぎる幸せとお金の経済学』(プレジデント社)

このような関係があることを考慮すれば、出産後の夫婦関係のケアの重要性は高いと言えます。第1子出産後に急速に悪化する夫婦関係に対処するためにも、「出産後学級」などの施策がより必要となるかもしれません。

夫婦関係の悪化は「家族の問題」として捉えられ、自分たちだけで解決しようと考えがちです。しかし、出産後の夫婦関係の悪化は、その後の結婚生活だけでなく、「もう一人」の出産にも深刻な影響を及ぼす恐れがあります。このため、外部の力を活用したケアを検討することも重要でしょう。

現在、日本は少子化という大きな課題に直面しており、この課題に対処するためにも、さまざまな政策が実施されています。

しかし、日本の女性は子どもを持つほど、そして、その数が増えるほど、生活満足度が低下する厳しい現実に直面しています。

男性の家庭進出を加速させる政策が必要

「子どもの数は増えてほしいけど、その結果として、女性の満足度が低下する」

このように、社会の求める方向性と個人の幸せが逆行する状況となっています。これは、日本の社会が直面する「大きな矛盾」だと言えるでしょう。

しかし、近年、男性の家事・育児参加が進み、男性も主体的に子育てに携わるといった望ましい流れが出はじめています。この中で、男性も子育ての大変さや仕事と家庭のバランスをどのようにとればいいのかという点に悩み、苦しむ事例が出てきています(*5)

この悩みや苦しみは、これまで女性が長年にわたって経験してきたものであり、男性側がそれを追体験している状況だと言えます。

男性と女性のそれぞれが仕事と家庭を両立させることの大変さを理解した上で、「じゃあ、どうすればいいのか」をオープンに話し合い、新しい方法を模索できる準備がようやく整いつつあるということです。ただし、それを各家庭の責任にまかせるのではなく、育休制度や働き方改革しかり、男性の家庭進出をよりいっそう加速させる政策が必要でしょう。

*1) ①Stanley, K., Edwards, L., & Hatch, B. (2003). The family report 2003:Choosing happiness?. London: Institute for Public Policy Research.
②Toulemon, L. (1996). Very few couples remain voluntarily childless.Population, 8, 1–27.
*2) Blanchflower, D. G., & Clark, A. E. (2021). Children, unhappiness and family finances. Journal of Population Economics, 34, 625–653.
*3) ①永井暁子(2005)「結婚生活の経過による妻の夫婦関係満足度の変化」,『季刊家計経済研究』, 66, 76–81. ②山口一男(2007)「夫婦関係満足度とワーク・ライフ・バランス」,『季刊家計経済研究』, 73, 50–60.
*4) 山口一男(2005)「少子化の決定要因と対策について――夫の役割、職場の役割、政府の役割、社会の役割」,『季刊家計経済研究』, 66, 57–67.
*5) 朝日新聞「父親のモヤモヤ」取材班(2020)『妻に言えない夫の本音 仕事と子育てをめぐる葛藤の正体』, 朝日新書.

佐藤 一磨(さとう・かずま)
拓殖大学政経学部教授

1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。