AIの無料講座を110万人が受講

また、今年世界中でAIが大きな話題となったが、フィンランドではすでに2018年から「Elements of AI」と呼ばれるAIの無料オンライン講座が国民に提供されていた。AIは既に、工場における不良品の識別やアレクサなどのスマートスピーカー、自動車の自動運転など、社会のあらゆるところに使われている。そのため、AIの基礎的知識を一般の人にもつけてもらい、テクノロジーの専門家たちが推進することに受け身で適応するのではなく、能動的に社会の変革に参加してほしいという狙いがある。

この講座は、ヘルシンキ大学と運営会社のミンナラーンというヘルシンキの企業が提供していて、AIが社会でどのように活用されているかを知る基礎的な講座から、プログラミングを教える上級のコースまでがそろっている。ミンナラーンよると、今までに110万人以上が受講し、受講者の40パーセントは女性、25パーセント以上が45歳以上だという。受講者の最高年齢は80歳代だというから驚きだ。

以前は技術者になるためのコースだけで、一般の人向けのコースはなかったため、一般の人向けに講座を作ったのだという。

このプログラムは、政治家が受講したり、企業が従業員に受講させたりしたことで広まっていった。フィンランドのサウリ・ニーニスト前大統領もこの講座を修了した人の一人だ。

Elements of AI のコース概要
Elements of AI のコース概要

日本ではこの手の話は、ごく一部の議員に任せっきりになっているように見える。デジタル化を進めた先にどんな社会が待っているかを国民に伝える必要があるのと同時に、それができなかった場合には、どんな日本の未来が待っているのか。そこまで考えて伝えるべきではないだろうか。

国民の信頼を得て、国全体のデジタルリテラシーを底上げしながら進んでいるデジタル先進国フィンランドからは、学ぶことはたくさんありそうだ。

大門 小百合(だいもん・さゆり)
ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員

上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。