運転免許証やパスポートの発行や更新は、公的機関に一度も行かずにオンラインだけで手続きを済ませることができる。必要な証明写真は、写真スタジオで撮影すると、直接発行元の公的機関に送られるという。また、国内の引っ越し手続き、車を購入した時の車両登録、車両税などの手続きや免税手続きなどもオンラインで完結する。所有権・位置情報・面積などが記載された不動産登記簿や住宅ローン登記簿なども、オンラインで確認できる。

医療記録や処方箋もオンライン管理

また、フィンランドでは、公的、民間、全ての医療機関がデータを共有しており、個人の医療記録システムは誰でも利用できるという。

Kanta Serviceと呼ばれるこの電子ヘルスケアサービスには、国民と医療従事者が同じデータにアクセスでき、医療記録や処方箋を閲覧できる。だから、たとえ旅行先で病気になり、現地の医療機関にかかったとしても、患者の過去の医療データが共有され、医者はそれを基に治療できる。同意書、リビング・ウィルや臓器提供の遺言書なども保存されている。

フィンランド国営放送の記者で、先日日本を訪れていたジェニー・マティカイネン記者は、「例えば、自分の処方箋を確認する時に政府のサービスサイトに行きますが、私は銀行のログインシステムを使ってログインしています。政府のサイトには自分のページがあって、今までの医療記録、レントゲン検査の結果などを見ることができます」とスマホの画面を見せてくれた。

日本政府のデジタル化に比べると随分進んでいるように思えたが、彼女は、上海に2013年から2014年に学生として、北京には2017年から2020年に特派員として滞在していた経験があり、全てがデジタル化されたキャッシュレス社会の中国に比べると、「フィンランドは数年遅れていると感じた」という。

オンラインが使えない人を支援する仕組み

ただ、中高年の人まで問題なく、こうしたオンラインシステムを使いこなしているのだろうか。そんな疑問をマティカイネン記者にぶつけてみると、「政府のシステムは使いやすいし、私の母は68歳ですが、彼女の世代は問題なく使えています。ただ、私の祖母の世代となるとさすがに厳しいので、助けが必要になることはよくあります」という答えが返ってきた。

フィンランドでは高齢者のための支援策も手厚く、自分でオンライン手続きができない人は、ほかの人に手続きを委託できる制度がある。息子や娘に1日から1週間までの間、自分の代わりに手続きができる権利を付与したり、それをキャンセルしたりすることもできるという。

「われわれは、アクセシビリティ(アクセスのしやすさ、使いやすさ)を大事にしてきました。すべてのフィンランド人が電子行政サービスを使えるようにしなければなりませんから。私も母親の代わりにオンラインで処方箋を受け取り、薬局に薬をもらいに行くなど、さまざまな手続きを代行しています」とルースカネン氏は言う。

こうしたオンライン手続きの普及は、コロナ禍で対面でのやり取りが制限される中、非常に役立ったそうだ。