手術後も化学療法のため高校受験は1年浪人することに

医師はぎょっとして、正確な病名を告げた。

「やっと病理検査の結果が出てきて、右の腎原発ユーイング肉腫で腎臓を手術したけれど、腫瘍は全部きれいにとれて、他のどこにも転移はありません」

「その言葉を聞いて、もうこれで終わり。1カ月遅れちゃったけれど、受験勉強を取り戻せるぞ。あのかわいい制服を着るんだと思いました」

ところが医師の口から出たのは、化学療法の必要性だった。一般的に言う、抗がん剤治療のことで、がん細胞は除去したが、徹底的に細胞をたたくためには治療はまだ続くという。

「化学療法から逃げられないのなら、勉強も治療もやるしかない。でも両方ともできるんだろうかと心配になりました。母も何もわからないので、病院のソーシャルワーカーに相談したら、受験の日を除いて投与の時期を調整するので、受験することはできると思います。

でも受験勉強はどうするの。病院内で勉強できるの。塾にもいかなければならない。何より中学校を卒業しなければならない。不安は広がりました。

結局、化学療法の副作用を考えると勉強はできないから1年間治療を頑張って、次の年にもう1回行きたい学校を受験できるように頑張ることにしました。いろいろ先生から選択肢を与えられたけれども、自分で考えて決めました。

高校は義務教育じゃないから、受験はできるだろうということで落ち着いたのです」

第2回へ続く

樋田 敦子(ひだ・あつこ)
ルポライター

明治大学法学部卒業後、新聞記者に。10年の記者生活を経てフリーランスに。女性や子どもたちの問題を中心に取材活動を行う。著書に『コロナと女性の貧困2020-2022~サバイブする彼女たちの声を聞いた』『女性と子どもの貧困』『東大を出たあの子は幸せになったのか』(すべ大和書房)がある。NPO法人「CAPセンターJAPAN」理事。