いきなり祭祀の“中心”に

皇室にとって大切な意味を持つ祭祀さいしについても、やや困ったことになる。

しきたりとして、祭祀において天皇・皇后と皇太子・同妃(および傍系の皇嗣・同妃)だけが神聖な宮中三殿の殿内にお入りになる(もちろん、ご健康面などでの支障があれば別)。それ以外の皇族は庭上でのご拝礼にとどまる。

上記の経緯で悠仁殿下が即位されるとしたら、それまで三殿内に入ったことがなく、殿内での天皇のご作法もご覧になったことがないまま、いきなり天皇として祭祀の“中心”に立たれることになる。その場合、祭祀の継承について、失礼ながらいささか戸惑われるかもしれない。

悠仁さまお一人の皇室になる可能性も

それら以上に深刻な問題がある。それは、現在の皇位継承ルールがそのまま維持された場合、将来、皇室に悠仁殿下たったお一人だけが残られる結果になりかねないことだ。

今のルールでは、内親王・女王およびそのお子様方(男女を問わず)には皇位継承資格が認められていない。このルールが維持されているかぎり(有識者会議の報告書などで、ご結婚後もご本人が皇族の身分だけを保持されるといった、中途半端な提案がなされても)、それらの方々がご結婚後も皇室にとどまられる理由はないし、「皇族」という自由も権利も大幅に制約されるお立場に縛りつけられ続けなければならない合理的な根拠も見つけられない。

そうすると当然、内親王・女王方はご結婚とともに皇室から離れられることになる。もし未婚のまま皇室にとどまられても、やがて歳月とともにそれぞれの宮家はなくなっていく。

その先にあるのは、悠仁殿下“お一人だけ”の皇室だ。

もちろん、悠仁殿下がご結婚されれば、ほかに妃殿下がおられることになる。しかし、いずれ皇室のすべてのご公務と責任がたったお一人の悠仁殿下に集中する厳しい局面があらかじめ予想できるのに、ご結婚を決断できる国民女性がスムーズに現れるだろうか。

しかも、その女性は必ず1人以上の男子を生むことを、強く期待される。そうしないと皇室そのものが終焉しゅうえんを迎えてしまうという、想像を絶した重圧に直面することになる。それがあらかじめ分かりきっている場合、ご結婚のハードルはこれまで以上にとてつもなく高いものになってしまわないだろうか。

旧時代的なルールの変更を

一夫一婦制の下で明治以来の「男系男子」限定というミスマッチなルールを維持することは、悠仁殿下にあまりにも苛酷なご生涯を強制することを意味するのではないか。

それを避けるためには、どうすればよいのか。

国会で皇室典範を改正し、これまでの男系男子限定という旧時代的なルールを見直す以外に方法はない。それが実現すると、直系優先の原則によって、天皇陛下のお気持ちとなさりようを最も身近に受け止めてこられた敬宮殿下が、次の天皇として即位されることになる。

さらに皇室にいくつかの宮家が残る可能性も生まれる。

国会の責任は重大だ。

高森 明勅(たかもり・あきのり)
神道学者、皇室研究者

1957年、岡山県生まれ。国学院大学文学部卒、同大学院博士課程単位取得。皇位継承儀礼の研究から出発し、日本史全体に関心を持ち現代の問題にも発言。『皇室典範に関する有識者会議』のヒアリングに応じる。拓殖大学客員教授などを歴任。現在、日本文化総合研究所代表。神道宗教学会理事。国学院大学講師。著書に『「女性天皇」の成立』『天皇「生前退位」の真実』『日本の10大天皇』『歴代天皇辞典』など。ホームページ「明快! 高森型録