皇室典範が抱える欠陥
はたしてどれだけの人が気づいているだろうか。現在の皇室典範が構造的な欠陥を抱えているということを。
皇室はとっくに側室制度を廃止して、「一夫一婦制」に移っている。にもかかわらず、皇位の継承資格を「男系男子」だけに限定するという、明治の皇室典範が初めて採用した、歴史上かつてない窮屈なルールをそのまま維持している。
正妻にあたる方から代々、必ずお一人以上の男子が生まれるなんてことはありえない以上、正妻以外の女性(側室)が生んだお子様などにも皇位継承を認める選択肢がもう一方にあった古い時代でなければ、こんな窮屈なルールは維持できるはずがない。だからその選択肢が消えた時点で、直ちに見直すべきだった。
20年近く前の「常識的な提言」
このような旧時代的なルールにいつまでも固執していれば、やがて天皇として即位される皇族が誰もいなくなってしまう、という危機感は以前からあった。
今から20年近く前の平成17年(2005年)に、当時設けられていた「皇室典範に関する有識者会議」が報告書をまとめた。その結論は、「皇位の安定的な継承を維持するためには、女性天皇・女系天皇への途を開くことが不可欠」というもの。一夫一婦制なのに「男系男子」限定のままという、ミスマッチなルールは必ず皇室の危機を招く。だからそれを是正しよう、というごく常識的な提言だった。
悠仁さまの誕生で生まれた「錯覚」
ところが、報告書が提出された直後、秋篠宮家にご長男、悠仁親王殿下がお生まれになった。この41年ぶりの男子のご誕生によって、皇室の危機がすっかり消え去ったかのような錯覚が生じた。
そのせいで、今から振り返るとまったく奇妙な展開なのだが、皇室典範の改正をめざす気運が一気にしぼんでしまった。
先の提言は「今後、皇室に男子がご誕生になることも含め」周到に検討した結論だったのに、政府・国会の討議では「お蔵入り」になってしまう。
皇位継承の危機は、先に触れた皇室典範の構造的欠陥、つまりミスマッチな旧時代的ルールそのものが原因だ。なので、男子お一人のご誕生ぐらいで、雲散霧消するはすがなかった。
しかしその後は、野田佳彦内閣の時に「女性宮家」の可能性がわずかに探られた程度で、しばらく何の進展もなかった。