のんきな前提をもとに公然と先延ばし
皇位継承の問題が、再び政治の場で取り上げられるようになるのは、上皇陛下がビデオメッセージでご譲位への希望をにじませられて以降だ。「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」が平成29年(2017年)6月に成立した際、国会の全会一致による附帯決議の中に「安定的な皇位継承を確保するための諸課題」について、政府が“速やかに”検討することを求める文言が、はっきりと盛り込まれた。この間、10年以上の空白の歳月が流れた。
政府が重い腰を上げて、この附帯決議に応えたのは令和4年(2022年)1月。すでに提出されていた「『天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議』に関する有識者会議」の報告書を、丁寧に吟味・検討することもなく、そのまま国会に回した。
しかし驚いたことに、この報告書では附帯決議で求められていた「安定的な皇位継承を確保するための諸課題」について、真正面からの検討が一切なされていなかった。まったくの「白紙回答」だった。
先の附帯決議では、「先延ばしすることはできない重要な課題」とわざわざ釘を刺していた。にもかかわらず、公然と“先延ばし”されていた。
「悠仁親王殿下の次代以降の皇位の継承については、将来において悠仁親王殿下の御年齢や御結婚等をめぐる状況を踏まえた上で議論を深めていくべきではないか」と。
のんきなことに、悠仁殿下がご無事に成長され、めでたくご結婚なさることを、自明の前提にしている。
それが望ましいことは言うまでもない。しかし畏れ多いが、これまで悠仁殿下が乗られたワゴン車が高速道路で前の車両に追突した事故(平成28年[2016年]11月)や、以前に通われていたお茶の水女子大学付属中学校に刃物を持った人物が侵入した事件(同31年[2019年]4月)などが、現に起きている。
近頃は、安倍晋三元首相銃撃事件(令和4年[2022年]7月)や岸田文雄首相襲撃事件(令和5年[2023年]4月)などのテロ事件も、相次いでいる。
次の世代の皇位継承資格者がたったお一人しかおられないという現実に対して、危機感が薄すぎるのではないか。
政治の無責任が悠仁さまのご結婚を難しくする
さらに、後に触れるように報告書のプランでは、敬宮(愛子内親王)殿下をはじめ未婚の女性皇族がご結婚されても、そのお子様は皇族の身分も皇位継承資格も認められない。
そのようなルールなら、やがて皇族は悠仁殿下のお子様しかいなくなってしまう。言い換えると、悠仁殿下のご結婚相手が必ずお一人以上の男子を生まなければ、皇室そのものを断絶させる結果になる。これはご結婚相手の女性にとって、想像を絶する重圧だろう。
そのような未来があらかじめ見えている場合、果たして悠仁殿下と結婚しようとする国民女性が現れるか、どうか。
報告書は、とりあえず悠仁殿下のご結婚までは様子見を決め込む、無責任な姿勢だ。しかし、そのような責任回避、問題解決の先延ばしこそが、悠仁殿下のご結婚そのものを至難にするのではないか。