「養子縁組」プランは憲法違反の可能性

②については、憲法が禁止する「門地(家柄・血筋)による差別」に当たるという根本的な疑念が示されている(東京大学教授の宍戸常寿氏、元内閣法制局長官の阪田雅裕氏など)。

養子縁組の対象は、憲法自体が「国民平等」原則の例外と位置づけている、つまり憲法第1章が優先的に適用される天皇・皇族ではなく(!)、同第3章が全面的に適用される一般国民だ。にもかかわらず、“旧宮家”系という家柄・血筋つまり「門地」を根拠に、皇室典範で禁止されている養子縁組(第9条)を、“例外的・特権的”に認めよう、というプランだ。どう考えてもアウトだろう。

憲法が要請する「皇位の世襲」(第2条)は、天皇の血統(皇統)につながる方だけが皇位を継承することを意味していて、男系・女系、男性・女性のすべてを包含した概念だ。「男系男子」という狭い限定は、憲法の附属法(下位法)である皇室典範の規定にすぎない、というのが政府見解であり、憲法学界の通説だ(内閣法制局執務資料『憲法関係答弁例集(2)』など)。

だから、皇室典範の「男系男子」限定という旧時代的でミスマッチなルールを維持したまま、憲法の「世襲」規定を根拠として持ち出して特定の「門地」の国民だけを“例外扱い”しようとすることは筋違いであり、憲法違反なので認められない。

「皇室典範に関する有識者会議」提言に立ち返るべき

以上によって、政府が現在、国会に検討を委ねている①②③の方策は、いずれも欠陥プランであることが明らかになっただろう。

この問題について、今のところ国会で目立つ動きはない。しかし、国会が附帯決議で求めた「安定的な皇位継承を確保するための諸課題」という原点に立ち返れば、上記の3プランが事実上の白紙回答にすぎなかった以上、それは国会での討議の基礎にはなりえないはずだ。

むしろ不当に放置されている、先の「皇室典範に関する有識者会議」の提言にこそ、再び目を向けるべきではないか。

皇室の将来を不安定にしている原因は、「男系男子」限定という皇室典範の旧時代的なミスマッチのルールだ。それをきちんと見直せば、どうなるか。

天皇・皇后両陛下には、誰よりも両陛下のお気持ちをまっすぐに受け継いでおられるお子様、敬宮殿下がおられる。にもかかわらず、単に「女性だから」というだけの理由で、皇位の継承資格を認められず、「皇太子」にもなれない。そのような、国民の気持ちからもかけ離れた不自然な状態が、たちまち解消される。皇室の未来も大きく開ける。

政府・国会は責任感を持って問題解決に立ち向かってほしい。政治が未来に向けて果たさなければならない役割を自ら担うか、どうか。国民はそれを注視すべきだろう。

高森 明勅(たかもり・あきのり)
神道学者、皇室研究者

1957年、岡山県生まれ。国学院大学文学部卒、同大学院博士課程単位取得。皇位継承儀礼の研究から出発し、日本史全体に関心を持ち現代の問題にも発言。『皇室典範に関する有識者会議』のヒアリングに応じる。拓殖大学客員教授などを歴任。現在、日本文化総合研究所代表。神道宗教学会理事。国学院大学講師。著書に『「女性天皇」の成立』『天皇「生前退位」の真実』『日本の10大天皇』『歴代天皇辞典』など。ホームページ「明快! 高森型録