ジュリー氏が取締役のままではタレントは言い出せない

ジャニーズ事務所が、性被害者の心理や症状、ケアの必要性をよく理解していないのは明らかだ。被害者が「ジャニーズ」という社名を聞くだけでフラッシュバックが起こる、と話しているのに、変更する気がないことからもわかる。BBCの報道以後のタレントとの関わりについて聞かれた時も、ジュリー氏はタレントをケアした話ではなく、自分がタレントにケアされて嬉しかったという話を、当然のように披露した。

「心のケア相談窓口」を設置したと5月に発表したが、会見ではその業務内容の説明もなく、実体のある活動をしているかも不明だ。心のケアの経験も実績も、あまりあるようには見えないジュリー氏が、今後タレントの心のケアを担当していくのは、疑問である。

記者会見するジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子氏=2023年9月7日、東京都千代田区
写真=時事通信フォト
記者会見するジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子氏=2023年9月7日、東京都千代田区

代表取締役で全株を保有する前社長のジュリー氏が担当するのでは、タレントが安心して自由に話せる環境とは、ほど遠い。逆に、事務所にとって都合の悪い話が出てこないよう、タレントの発言をコントロールする結果になってしまう恐れもある。とりわけ、事務所にとってダメージの大きい、タレント自身による告発を抑止する形にはならないだろうか。

本来、時効はあっても、警察や国会の特別調査委員会などの公的機関が、事件の全貌を調査すべきだと思うが、ジャニーズ事務所は、自らが知り得たことも公表する義務がある。もしタレントから、性被害に遭ったという話を聞いたら、個人が特定されない形で、数や大まかな状況を公表すべきだ。万が一、社員やタレントの中に性加害者がいた場合は、刑事責任の有無は別にして、公表しないのはさらなる隠蔽につながる。

突然「1年間タレントに100%報酬が行くようにする」と発表

以上の点を鑑みると、タレントの心のケアの担当はジュリー氏ではなく、再発防止特別チームのように、事務所とは全く関係のない第三者機関に全面委託するのが妥当だ。

そしてタレントの将来のためだけでなく、こうした心のケアの観点からも、移籍や他社との合流などの形で、タレントをジャニーズ事務所から、はっきりと切り離すことが必要だ。

ビジネスと人権の観点から見た場合、このような組織と取引を続けるのは、リスクが大きすぎる。日産、東京海上日動火災、アサヒグループホールディングスなど、ジャニーズ事務所との取引を見直すスポンサー企業が続出しているのも当然だろう。タレントの価値は既に、国内的にも国際的にも毀損されてしまった。

ジャニーズ事務所は9月13日、突然、今後1年、タレントに広告や番組の出演料を全額渡し、事務所は報酬を受け取らない、と発表した。こうした措置が可能だったなら、なぜ1週間前の会見で言わなかったのだろう。できるだけ損失を最小限に抑えたいという計算がほの見えて、企業としてのインテグリティ(誠実さ)がますます問われてしまう。

報酬返上で、タレントをつなぎ留めようという狙いがあるのだとしたら、逆に、移籍や退所をしても、妨害行為をすることはないので、安心して自由に決めてほしい、と伝えるべきだ。