本来はジュリー前社長が東山&井ノ原両氏を守るべきだった

記者会見ではさらに、東山氏が性加害を受けていたか問う質問も出た。東山氏は否定したが、公の場でそれを語ることを強いられた。性被害者の間では、この様子を見てショックを受けたという声も、SNSなどで上がった。

記者側がこうした質問をすることに、細心の注意を払うべきであることは言うまでもない。相手の尊厳を侵さないよう、その心情について想像力を働かせること、相手を「人」として扱うことが欠かせない。こうした十分な配慮をすることは、一対一の取材なら、まだ容易だ。だが被害者からすると、全てのメディアに一対一の対応をするわけにはいかない。いきおい会見での対応となる。性被害者や、性被害を受けた可能性のある人が会見に臨む場合の取材のありようについて、もっと社会全体で議論を深めるべきだろう。

ただ今回の場合、事務所が事前に、個人を特定しない形で所属タレントの調査を行い、その結果を会見で明らかにしていたら、話は違ったはずだ。そのようにして事務所は、東山氏や井ノ原氏が、直接質問に答えなくていいよう守るべきだったのではないだろうか。被害者である可能性のある者を、組織の責任の追及を受ける立場に立たせる、というねじれた状況を作り出していなければ、元々こんな状況は生まれなかったのだ。会見どころか通常の取材まで拒否し続け、この場以外に何も聞く機会がない形にしてきたのも、事務所の責任だ。

【図表】ジャニーズ事務所の経営と性加害問題をめぐる年表
出典=ジャニーズ事務所・外部専門家による再発防止特別チーム「調査報告書(公表版)」(2023年8月29日)より編集部作成

タレントに「一丸となること」を強いてはいないか

再発防止特別チームの調査でも、所属タレントのヒアリングはほとんど行われていない。ジャニー喜多川氏の性加害の全貌は不透明なままだ。

だが事務所とジュリー氏は誠実に対応するどころか、さらなる事実解明の責任から逃げた。タレントの東山氏を矢面に立たせることで、対外的には隠蔽を図り、内部的には、所属タレントが自由に発言できない空気を作りだした。

東山氏は「イメージを払拭できるほど、皆が一丸となって頑張っていくべき」と会見で話していた。もし所属タレントの中に、ジャニー喜多川氏の性加害を受けていたが、それを言い出せないまま一丸となることを求められているケースがあるなら、人権侵害に当たるのではないだろうか。そこまでしてタレントに、事務所と一体になって協力するよう求める体質こそ、ジャニーズ事務所が脱却しなければならないもののはずだ。