必要なのはジュリー氏を経営から切り離す再建プラン
調査報告書が求めていた同族経営の解消も、ゼロ回答だった。ジュリー氏が代表取締役のまま、全株持ち続けているからだ。新社長の適任者が外部には見つからなかったと言うが、実権をほとんど与えないこの条件で、社長を引き受けようとする人はいないだろう。
ジュリー氏が全株を保有していた方が補償に都合がいい、というのは言い訳だ。再建に誠実に向き合うなら、それが他の誰かでもかまわなかったはずだ。国際的な観点からは特に、誰の目にもわかりやすいクリアな形に刷新しなければ、再出発はありえない。今回行うべきだったのは、ジュリー氏を経営から完全に切り離す意思とプランを、明確に示すことだった。
ジュリー氏ができることは、事務所が簡単に解散できるような被害者救済委員会の設置ではなく、補償に特化した基金を作り、被害者の補償に誠心誠意応じることだ。さらに、芸能界における性虐待の被害者救済のための基金を、私財の一部を供出して設立すれば、資金力がない芸能プロダクションに所属しているタレントも救済される道が開ける。それが業界全体に貢献し、彼女自身のレピュテーション(経営者の評判)を回復する方途の一つとなるのではないだろうか。
コーネル大学Ph. D.。90年代前半まで全国紙記者。以後海外に住み、米国、NZ、豪州で大学教員を務め、コロナ前に帰国。日本記者クラブ会員。香港、台湾、シンガポール、フィリピン、英国などにも居住経験あり。『プロデュースされた〈被爆者〉たち』(岩波書店)、『Producing Hiroshima and Nagasaki』(University of Hawaii Press)、『“ヒロシマ・ナガサキ” 被爆神話を解体する』(作品社)など、学術及びジャーナリスティックな分野で、英語と日本語の著作物を出版。